03 命の終わりに



 研究は全てではないが何とか、手をつけられた。

 クロアディールから狂気の影響を取り除き、いつの間にかとりつけられていた探知の能力(発信機のようなもの)も取り外せた。


 だが、出来たのはそこまで。


 命の終わりは唐突に訪れた。

 世界の状況が悪くなった。

 アイラが言ったような試練と言う言葉が頭に浮かぶ。

 それはまさしく、人が生き延びるための試練の様な光景だった。


 世界終焉の光景。

 いつかの世界で、未来が桐谷を背負って逃げた時の様なそんな危機的状況があった。


 悪湧きで出てくるような異形の化け物に遭遇して逃げ回るのだが、やはり研究ばかりに明け暮れていた日々は、悪い意味で裏切らなかった。

 敵に追いつかれてやられた。それだけの事で、命を落とすのだ。


 現実は疑いようもない光景をまざまざと見せつけてくれる。

 何体もの気色の悪い化け物に取り囲まれて、胸に風穴があくような怪我を負えば誰だって死にもするだろう。


 老人になるまでこの世界に居続けるのを覚悟していたのだが、案外短いものだった。

 命を捨てたつもりはないが、執着心があまりなかったのがきっと生死を分けたのだろう。


 ただ、最後にこれだけは言っておかなければならない。


 異形共から逃げた先、町の片隅にてこちらの傍らに寄り添うクロアディールを見つめ、口を開く。


エマ「今でも、俺が……」


 憎いのか?


 そう尋ねようとしたのに、もう時間がない。体力が突きそうだった。


クロアディール「死なないで。死んじゃいや……エマ、一人にしないで」


 茉莉が妹の様な存在なら、クロアディールは娘の様な存在だったかもしれない。

 寄る辺のない世界で、二人で生きていた中、エマよりも目的意識のないクロアディールは常にこちらにべったりで、そしてあいつとは違ってこちらに日常の大部分を依存していたから。


 すまない。

 俺は元々、この世界のこの場所にいるべき人間じゃなかったんだ。


 だから悲しむな。

 

 そして、最後に遠い未来へと声を届けた。


エマ「――――」


 それがエマにできる最後の命の力だった。




 そして再び魂は巡り世界を超えて、生まれ変わる。






 幼子を手に抱いた男女が目の前にいる。

 その姿を見つめる未来は小銭を握りしめて迷っていた。

 自分にできる事はないのか。

 けれど考えていた事が見当違いだったらどうしようか、と。


 やがてそこにいる男女の内の女の方が、抱いていた赤ん坊を建物の前に置く。


未来「……」


 その光景を前に、何か悲しいことが起こっているのだとそう理解した未来は、焦燥のままに動こうとするのだが……。


エマ『誰かが、見ている……』


 周囲に視線を向けると、先程までは気が付かなかった少女が建物の陰に立っているのが見えた。 


 勝気そうな顔立ちの女の子だ。


 目が合った少女は、表情を強張らせる。

 それがどういった意味か分からなかった未来は、近づいて話しかけに行く事にした。


未来「そこで何してるんだ?」

円「アンタこそ、何してるのよ」


 二人して、男女の方を見つめる。

 手放した赤ん坊に別れの言葉みたいなのを告げているようだ。


円「あの子、可哀想。きっと捨てられたんだわ」

未来「捨てられる? 本当に」

円「そうとしか考えられないじゃない」


 捨てられるって事は知ってる。それは、親がいなくなって、同じような子達と一緒に暮らす事になると言う事だ。家で暮らせなくなる事。


未来「そんなの駄目だ」

円「あ、ちょっと……」


 家族は一緒に過ごさなければいけない。

 一緒にいるのが幸せなはずなのだ。

 だって未来がそうだから、離れ離れになるなんて考えたくもない事だ。


 その場から離れて行こうとする二人に声をかける。


未来「あのっ……」

円「ああ、もうしょうがないわね」


 それにつられるように出会ったばかりの女の子が傍に寄って来た。


円「誰かを助けるために誰かを不幸にするなんて、そんなの正義のヒーローのする事じゃないものね」


 そうして、未来は彼等と知り合う事になるのだ。

 古戸ふるどと言う生贄になる運命だった人間を助けた、陽鳥ひどり家の人間と。茉莉の本当の両親と……。

 そして、長く付き合う事になる基地メンバ―の人……円とも。


 

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