04 先手



 そして未来は、茉莉と幼なじみとなって、兄弟の様に日常の時間を過ごす事になるのだ。


 物心をついてから常に一緒だった。


茉莉「みらいみらいー。あのね、みらいー。ぼうけんっ、ぼうけんしよ」

未来「こら、茉莉。そんな風に走ると転ぶぞ」

茉莉「あっ……、ひゃうっ。………うぅ、ひぐっ」

未来「全く、だから言ったのに……、ほら見せて見ろ」


 甘ったれで泣き虫で、世話が焼ける所はまるで変わらずに。


 一緒に遊園地にも言ったし、プールや海にも言った。

 そのたびにウロウロして、迷子になったり怪我をしたりする茉莉の面倒を見るのは未来の役目で、きっと今までいた世界と、二人が過ごす時間に変わりはなかったとそう思える。


 だが、そんな事実を知るのももう少し後だ。


 未来が中学二年生になり、茉莉が小学五年生になるだろう春の頃だった。

 中学に入って円経由で知り合う事になった桐谷先輩から基地に呼び出され、本の話の事を聞かされたのだ。

 今までの世界では、有栖の件でケンカして退学になって、みっともない感じになってから知り合う事になるのだが、それが早まったのだ。


 聞かされた本の内容は。

 未来が茉莉を助けようとする物語、その為に前世まで時を戻し続ける物語だ。

 ここで俺はようやく、新たなスタート地点に立つ事になるのだ。


桐谷「ずっとこの本は白紙で、私の能力も何の物なのか分からないでいたんだがね。今までの世界での事を、推測するに全ての世界で私の本が読めようなったのは未来が高校二年生になった学年の1月1日だ。それが何故かこの世界では、三年と約半年ほど早く読めるようになっている」


 それは何故か、物語を動かしえる分岐点が本来の場所から時を遡ってこの時点に発生したからだ、と桐谷は言う。


未来「えっとつまり、近いうちに茉莉の身に何か起きるって事でいいんですか」

桐谷「まあ、要約するとそうなるね」


 だとしたら未来はどうするべきだろう。


桐谷「茉莉は今はどこにいるんだい」

未来「古戸さんの所で弓を習ってます。大会に出たいからって息巻いてたから、いつもより時間がかかると思いますけど」


 もうじき入学式を迎えて、小学五年生になる茉莉の腕前はプロ顔負けのものだ。才能があったのだろう。


桐谷「茉莉は……彼女は記憶はあるのかな。それと、この世界の有栖と雪高の行方を探った方が良いね。純粋に心配だろう。いやその前に……、山は警察組織に縁のある円に話を付けて封鎖させよう。被害が出なければ生贄を差し出そうと考える事もなくなるはずだ」


 凄いな先輩は。

 未来などは未だに混乱していると言うのに。


 有栖や雪高は年下だからともかく、未来は他の基地メンバーの中で一番能力が低い様な気がする。


桐谷「君の良さは別の所にあるさ。そこで頑張ればいい」


 そうだったらいいが。






茉莉「ふぁ、あふ……」


 その日、夜の九時。

 未来の家に勉強しに来た茉莉は欠伸をしながら、人のベッドに転がっていた。


未来「おい、起きろ。まだ宿題が残ってるぞ」

茉莉「やぁだー」


 やだじゃない。誰の為に手伝ってやってると思ってるんだ。


茉莉「うぅ、眠いのにー」


 布団を体に巻き付けた状態で身を起こす茉莉だが目が開いていないし、頭がふらついている。


 明日、今後の方針を基地メンバーと話し合う予定だが、未来は未だにどうすべきか迷っていた。


 本当に話して良いのだろうか、信じてもらえるのだろうか、と。


 円は今までの世界では敵だった。

 それに、一度未来が事情を話した世界では桐谷以外には良い反応をされなかったらしいのに。

 信じられるだろうか……。


未来「……」

茉莉「未来、明日は大丈夫だよー。何かあってもあたしも手伝うよ」


 茉莉に心配されるくらい顔に出ていたのか。


未来「茉莉は反対しないのか。助けるなって……」


 桐谷先輩と話した後、大雑把な事は目の前の幼なじみにも話していたのだが、依然と同じように拒絶されないか、怖かった。


茉莉「何でー? あたし未来の事信じてるよ、危なくなっても必ず来てくれるってー」


 その言葉、今までの世界でもそんな事言ってたよな。

 でも、結局は茉莉は助けられる事を望んではいなかった。


茉莉「そうかな? あたしは嘘はつかないと思うよ。きっとそのあたしも未来の事が大好きだったんだねー」

未来「どうしてそうなる?」


 何がどうなってそんな結論になるんだか、全く分からない。


茉莉「会話してくれる人に、本当に助けてほしくない人なんていないと思うな」

未来「……」


 理解して欲しいから話すんだよ、と茉莉は続ける。


 分かって欲しいから話すんだ、と。

 分かて欲しいって思うのは、きっと仲良しの人だからだね。そう続けて。

 仲良しで信頼してなきゃ、笑い飛ばされる様なこと言わないと思う。最後にそう笑って。


 そうか。

 あの茉莉は助けて欲しかったのか、未来に。


 馬鹿だ。馬鹿だな俺。

 茉莉に言われるまで、そんな事に気が付けないなんて。

 

未来「お前はどうなんだ……」


 俺に助けて欲しいって思ってるのか。

 記憶は、あるのか?


茉莉「んー、言わない」


 そうか……。


 言わないんだったら喋らないんだろうな。






 それからも、山の洞窟に変な集団が居つかない様に見張ったり、詐欺師集団がのさぼらないように警察に警戒を促したり、先輩は的確な行動をとっていく。


 そして、本の内容を公開して、円と桐谷先輩、茉莉を交えて作戦会議をして決めた方針は。


未来「先手必勝で、異界の地へと向かいもう一つの世界が滅びないようにする」


 と、なった。


 理屈はすごく分かる。

 双界性理論とやらで、もう一つの世界が滅んでしまったらこの世界も大変な事になるのだと。


 分かってる、以前の自分もそうするしかないと考えていた事を。

 だが、だからって不安が消えるわけではない。自分から望んで死地に飛び込むなんて……。



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