05 異界へ



 新しい学年の入学式前日。

 未来は、今山の中にある洞窟の前にいる。


 馬鹿げた事にこれから、自ら神隠しに遭って、異界へ赴き、その世界にある問題を解決しに行くのだ。


 周囲に他の人間はいない。

 いるのは……。


茉莉「ねぇ、未来ほんとにいいのー? 桐谷さん達に言わなくてー」


 茉莉だけだ。

 出来る事なら危険な目に遭わせたくなかった。だが、目の届かない所に置いて置くと心配で仕方がないし、自分の知らないところで茉莉を危険な目に遭わせたくなかった。


 それに……。


茉莉「あたしはー?」

未来「茉莉は必要だからな」

茉莉「そっか、そっかー、えへへ……」


 未来には茉莉が必要だと、そう思うからだ。


 洞窟の中へと向って行こうとするが、そこに声をかける者がいる。


円「水臭いじゃないの」

桐谷「ふむ、背負いむのは責任感がるのとは少し違うな」


 円と、桐谷先輩だった。






円「まあ、アンタの言う事が正しいんなら、その世界を救えば、茉莉ちゃんが生贄にならなくても、こっちの世界が滅びる事はないんだろうけどさ」

桐谷「む、円。私の記憶違いでなければ、君は未来の話に納得したはずだが」

円「そ、それはそうだけど、嫌ってわけじゃないわよ。でも、色々怪異とかファンタジーとか聞かされて、いざこれから異界に行きますなんて言われたら、考えちゃうのが普通じゃない」


 話を聞かされた円はそんな感じだ。

 この世界を救うために茉莉を犠牲にしようとした時の思いきりはどこにいったのかと言いたい。意外と臆病なんだな。


 そう言うと、不満げな顔をされる。


円「アンタってそう言う事ホントに分からないのね。人の些細な心の機微とか、乙女心とか、そこら辺が」

茉莉「怖いけど、未来が助けてって言うから頑張るんだよー」

円「そうそう、茉莉ちゃんは良い子ねほんと」


 恩着せがましいな。それは要するに借りを作りたいだけとどう違うんだ?


円「はぁー……、もうほんとにしょうもない男ね。この話だって茉莉ちゃんが間に入ってなかったらあたしキレてたわよ。気も使わないであるがままに話してくれちゃって」


 あるがまま話さないと説明にならんだろうが。


円「もういいわ。ついでに聞くけど、あんた、アタシの事恨んでないの……」


 ついでに聞く事じゃないだろう。それは……。


未来「恨んでないと言ったら嘘になるかもしれない。だが、それは別の世界の話だ。何で記憶が直に受け継がれないんだと思った事もあるが、それはきっとそう言う事なんだろう? 感謝もしてるからチャラだ。助けてもらった事もあったからな」

円「そう……あんたって、しょうもない奴だけどお人よしね」


 何とでも言え。


 そんなやり取りを見た影響か、茉莉が二人に謝る。


茉莉「円さん、桐谷さん、ごめんね。あたしのせいで」

円「茉莉ちゃんは気にしなくて良いのよ。仲間を助けるのは当然の事なんだから」

桐谷「ああ、私も気にしてないよ」

茉莉「うん、でも……有栖ちゃんと雪君も」


 そして、こっそりついてきていたらしい有栖と雪高にも告げる。

 いたのか。いつからだ?


 と言うより何でこんな所に二人がいる。


雪高「なんだ、ばれてたのか。べつに気にするなよ。そんなの茉莉姉ちゃんが危なっかしいのはいつもの事だし」

有栖「そうよ、いちいち謝らないでよ。た、たまにはこういうのも良いかなって思っただけなんだから」


 年少組はそんな軽いやり取りで話を終わらせようとする。軽すぎだ。


 分かってるのか。ちょっとそこらに散歩しに行くわけじゃないんだぞ。


雪高「分かってるよ。でも聞いちゃったもんは仕方ないだろ。ここで家に帰ったらきっと後悔する」

有栖「そうよ、それに茉莉も未来も、あたしを助けてくれたわ。だったら、今度はあたしが助ける番、そうでしょ?」


 助けを求めて先輩へと視線を向けるが、先輩は何を思ったのか大きく頷いて同行を承諾するようだった。


 本気ですか。


桐谷「思いに年齢の差などないよ。ここで彼らを振り払って進む事は、彼らの気持ちを蔑ろにする行為だ。それに……、きっと私達がこの顔ぶれで出会った事には意味があるのだろう。縁という物を馬鹿にしてはいけない。それは未来が良く知っているだろう」

未来「……」


 確かに、そうですけど。


茉莉「未来、あたしたちは仲間だよ。だからみんな一緒が良いな。一緒に行って、一緒に頑張って、また帰ってこようよ」

未来「はぁ……」


 しばらく悩むものの、全部なんとなるよみたいな能天気な茉莉の笑顔に押されて、未来も結局了承する事になってしまった。


未来「じゃあ、やるぞ」


 大道寺三座だいどうじみさの本を借りて、エマの知識を総動員して編み出した異界転移の魔法。

 こんな形でオカルトの世界に足を突っ込む事になるとは……。


 地面に魔法陣を刻みこめば、後は魔力を注ぐだけだ。

 この世界で、唯一魔力の存在する物体……と判明した桜の木の枝を、魔法陣の中に置く。


未来「簡単には帰れないぞ、いいんだな」


 最後に確認を取る。

 だが、皆、心は決まっているようでそれぞれから頷きが返って来た。


未来「茉莉……」

茉莉「うん。がんばろうね未来」


 最後に、茉莉の手をとって、そして、魔法を発動させた。



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