06 魔湧き
円の引き受けた他人(この間のとは違うらしい)の課題の為に未来達は怪異調査をしなければならなくなった。
茉莉は誘っていない。付き合いという物があるらしい。相手は風邪でも引いてしまえばいい。
そして、桐谷先輩も会社で引き受けた依頼が忙しくて手が離せないらしい。
この場にいるのは円と未来の二人だけだ。
踏み入れたのは山の中、人が通る道を外れて数分。噂の場所であるらしい洞窟の元へたどり着いた。
冬だと言うのに山歩きがそれなりの労働になったらしく、額には汗が浮かんでくる。
この間も山に来に行くとか言ってなかったか。今日のは何が違うんだ。
未来はここまで碌に説明もせずにやってきた円に質問するのだが。
未来「で、ここは何の場所だ」
円「山よ」
イラっとした。
聞きたいのはそう言う事じゃないのだ。
円「冗談だってば、怒んないでよ。ここはね……魔湧きの山よ」
魔湧き?
聞いた事がない。
円「その昔、この山から恐ろしい異形の化け物が湧いて来て、人を襲った事があるって話」
未来「初耳だな」
円「そりゃそうよ。なんたって、その当時は大勢の人間を生贄にしてその災厄を治めたっていう門外不出の話だもの。この調査の依頼主の、えーと誰だっけ? 大道寺少年もあまり言いふらさないでねーとか言ってたし」
……生贄だと。
きな臭い話だな。そんな怪しげな案件を持ってくる奴を信用して良いのか?
山をうろついている最中に、真似事してそうな愉快犯に出くわしたらどうするんだ。
円「あら、心配してくれるの? やっさしいわね。でも平気よ。あたしはこれでもいざとなったら強いから」
ケンカが強いレベルで犯罪人と張り合えると思うなよ。
特に刃物を持った相手なんかは、とっさには体は動いてくれな……。
おかしいな。
どうしてそんな事が分かるんだ。
円「何ぼーっとしてんのよ、さっさと行くわよ」
円に促されて意識を引き戻す。とりあえずあいつ一人で先に行かせるわけにはいかない。
全く躊躇いのない足取りにため息をつきつつ、未来はその後を追って行った。
山の中にポツリと存在していた洞窟の中へと進む。
どこかへと繋がっているのか、風通しはよく、そんなにジメジメしした感じはなかった。
人の踏み入った気配を見つけた時は、さすがに引き返そうと提案したのだが、円が聞き入れない。嘘だろう。馬鹿だろう。
危険な事なんでこの世に起きないとばかりの様子に夜道を平然とうろつき回ってそうで、少し心配になった。
円相手に心配になるなど、かなり珍しい。
そんな調子で進んで行った時、ふと円が足を止めて地面に転がっていた、重い石をのろのろどかし始めた。
未来「何してるんだ」
円「見て分かんない? どけてんのよ」
それは知ってる。俺が聞きたいのは何でそんな事をしてるのかと言う事だ。
手伝ってやるか悩んでいると、さっさと円がその石を脇に追いやってしまった。割と力があるな。
円「馬鹿力、とか思ってないでしょーね。こういうのはコツがあんのよ。コツが。まったくっ失礼な奴。……お、隠し扉発見。さすが円さんね」
先程まで石が乗っかっていた場所には、扉があった。
円「スクープスクープ」
未来「おい、本当に行くつもりか?」
とか言っている内に鼻歌を歌いながら円は先へと進んで行ってしまった。
このじゃじゃ馬女……。
扉を開けてすぐにある階段を降りて行って、すぐに後悔した。牢獄が並んでいる。冗談だろ?
怪異と関係あるのかは知らないが、疑いようもなくここはヤバい場所だった。
円「大変よ未来、ちょっとこっちに来て!」
今度こそ引き戻そうと考えたところで、常にない真剣な声が少し先から飛んでくる。
円は牢獄の一つを見つめて、驚いていた。
向かって行くとその理由が分かる。
未来「……人間?」
円「女の子、よね?」
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