05 1/9 過去の夢



 その日未来は夢を見た。


 小さな頃の夢だ。

 確か、未来が十歳で、茉莉が七歳くらいの頃だったか。


 家族と一緒に遊園地に行った時の事。

 妹の茉莉の手を引いて、色んな乗り物に乗った。

 ぽやっとした見た目と違って、絶叫系のスリルのあるアトラクションが好きな茉莉は、乗れる乗り物には何度も未来を突き合わせ、身長制限で乗れない乗り物には泣いて我が儘を言って大層困らされた。


 だが、楽しかった。

 茉莉も笑っていて、未来も笑っていて、家族と一緒で。


 けれど楽しいばかりでは終わらなくて最後にはトラブルも起きた。

 ふと目を話した瞬間に、茉莉は迷子になってしまったのだ。


 家族総出で探し回って、どうにかして未来が見つけた時は、なぜか茉莉は敷地外に出ていたのだった。

 仕切りのフェンスに開いていた穴をくぐって行ったらしい。動物じゃあるまいし、とその時思った。


未来「茉莉っ、今までどこにいたんだ。探しただろ」


 声を駆けると茉莉は、泣きじゃくりながらこちらに飛びついてくる。


茉莉「うわぁぁぁん、みらいー。やだよぉ。置いてっちゃやだよお。どこ行ってたのー、ぐすっ……えぐ……」


 どこかに行ってたのはお前の方だ、とは言えなかった。


 茉莉がこの世の終わりの様な顔で大泣きしながら、しがみついてきたからだ。

きたからだ どこにそんな力があるのかと思うくらいの強い力で、決してこちらを話さないように。


 茉莉はよく一人になるのを怖がった。

 今はそうでもないが、昔は家族の姿が見えなくなると、いつもこちらを探し回って泣きべそをかくのだ。


 茉莉が実の両親から捨てられていた、という事実はまだ話していない。

 初めて出会った時に、金銭的な理由で子供を手放さざるを得なかった両親から、口止めされていたのもあったが、まだ茉莉が幼過ぎたから。


 本人が望むのなら話しても良いと両親は思っているし未来も思うのだが、どうも茉莉はそれに関して気づいているのかいないのか、日常からは読み取れないでいる。


 茉莉に捨てられたという記憶はない。赤ん坊の時の事だし、覚えているはずがないと思う。

 けれど、あれでいて茉莉は、馬鹿でも間抜けでもない。


 うすうす自分の境遇には気が付いているのかもしれなかった。


 1月11日。今度の誕生日はどうするべきか……。







 思案するような形で夢が終わる。

 茉莉は今日は部屋にいないようだった。布団の上に珍妙なものが乗っかっているような違和感はない。当然だろう。彼氏ができたのだから。……。


 枕元に置いた携帯にメールが三つ入っていたのに気が付く。

 一つは桐谷先輩から。本について話したい、だ。

 本? 何か彼女から借りていただろうか。心当たりはないが。

 二つ目も先輩からだ。製薬会社からの急な依頼が入ったから、申し訳ないが先程の予定をキャンセルしたい、との事。

 そして、三つめは円から。怪異調査の誘いだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る