04 1/8 オカルト本
学校帰りに寄った基地で、円が掃除をしていて驚いた。
てきぱきと容量良く物をどけていって、掃除機やら雑巾やらを使って汚れた所を綺麗にしていくその様子は慣れた物だ。
円「何よ、意外そうな顔しちゃって」
お前にそんな女らしい一面があった事に驚きだ。
円「失礼な奴、アタシにだって女らしさの一つや二つあるわよ」
逆に言うと数えるほどしかないと言う事か。
円「むっかあ。ほんと素直じゃないわ。何でアタシ達こんな奴なんかに
……」
文句を言いつつも手は止まらない。
円「そういえば、一週間ぐらい前に受けた怪異調査の件だけど。やっぱり断っといたわ。山奥の洞窟なんて危ない場所、未来はともかく茉莉ちゃん達に行かせるわけにはいかないものね」
未来「そうか……」
他人に任せられたらしい、どうにも怪しい話の事はまだ記憶に新しい。
円が勝手に引き受けて来て、未来達に協力して欲しいと言って来たのだが、どうやら自己判断で突っぱねたらしい。
円「時間がなかったから、突っ込んだ話は後にしようって思ってたんだけどね。よーく話してみたらそいつ評判悪いのよ。どうせ妬み嫉みみたいな、良からぬ事を企んでるに違いなんだから、わざわざ悪事に手を貸してあげる事もないなって。学食のタダチケットは魅力的だったけど」
食い気に釣られたのか。
そんな視線が気に召さなかったらしい円は、稼働させていた掃除機で、こちらの足にぶつけてこようとした。当然避ける。
円「あ、別に貧乏なわけじゃないわよ。何よその目。言っておきますけど食材には困ってませんから。未来がびっくりしちゃう様な高級レストランだって行った事あるのよ」
親が警察の偉い人間だとか言う円は、それなりに裕福な暮らしをしているようだが、普段が普段なので、そんな事は忘れて久しかった、お嬢様という柄でもないだろう。
円「料理だって、食材に物を言わせてフルコース作れちゃうんだから。今度アンタに食べさせてぎゃふんと言わせてあげるわよ。襟首掴んで家に招待してあげても良いのよ」
豪華な家柄だと言う事をひけらかしたいらしい。
だがm窓の近くで座布団叩いて、埃を払ってる人間のセリフでいいのかそれは。
桐谷「ふむ、胃袋を掴む作戦だな」
桐谷先輩は思案気に何か呟いている。
何の作戦ですか、それは。
円「そうよ、だから受けなさい」
それは挑戦状を叩きつけているのか? 面倒くさい。
未来「堅苦しい円よりも普段の円の方がいい」
円「え?」
未来「警察署の娘なんぞじゃなくて、食うんだったら円の作った方がいいに決まってる」
円「え、そ、え……」
興味はあるが、無駄に豪華な物を振る舞われても味が分からないなんてオチになるだけだしな。
そんな風にして、お嬢様が似合わない円にお嬢様をひけらかされていると、窓の外から声が聞こえて来た。
茉莉「開いてないよー。入れてよー、未来ー。いじわるー」
玄関の鍵を閉めておいたんだった。窓の外からドンドンと叩かれて、桐谷先輩から呆れた目で見られた。
仕方なく玄関まで行き、招き入れてやる。
別にこの前のケンカを気にしていたわけではないし、会うのが怖くて虐める様な形になってしまったわけでもない。
今やっている宿題が良い所だったから、邪魔されたくなかったのだ。
断じて気にしてるわけではないのだ。
茉莉「桐谷さんにおみやげー」
桐谷「ん、すまないな。お菓子かい?」
今日は言わずもがなだが、全員出席だ。未来と茉莉、桐谷先輩と円で総勢四名の基地メンバー、これが全て。
茉莉「手作りのクッキー、家庭科の授業で作ったんだよ。食べて食べて。はい、未来のもー」
朝登校した時は顔を合わせなかったのだが、茉莉の機嫌はとっくに直っていた様だ。
茉莉のお世辞にも良い形とは言えないクッキーの入った包みを受け取りかじる。
甘い。
甘かった。
これでもかというくらい甘い。
未来「……砂糖入れ過ぎだ」
茉莉「えー、くっきーって甘い方が美味しいんでしょー?」
甘ければ美味しい、わけないだろ。
それなら世の中から砂糖以外の調味料が消えている。
茉莉「くっきぃ? くっきー? くきー。くぅぅぅっっっきー? くきききき? くけけけ?」
最後のは怖いからやめろ。
何が面白いのか茉莉はクッキーの発声練習をしながら、鞄から宿題……ではなく、おかしな本を取り出した。
暇な時に使っているのだろう。二次元イラストが所々書かれた、自由帳にその本に書かれた内容をぐりぐりと書き写していく。
怪しげな言語の、怪しげな図形が書かれた本の中身を。
未来「何だ、それ」
茉莉「えーとね。大道寺さん家の
未来「人の前で広げたりしてないだろうな」
茉莉「してないけど、何でー」
お前を中心点として半径五メートル以内に人が入ってこなくなるぞ。
茉莉「よく分からないけどー、大丈夫だよ。たぶん?」
いつも思うがお前のその自信はどこから来るんだ。
茉莉「だって、未来はあたしの事嫌いにならないでしょー? 世界中の人に嫌われても未来がいれば、なら、だいじょうぶー」
その通りだ。世界の人間がお前の敵になっても、妹だからな。味方でいてやる。安心しろ。だがそれとこれとは別だ。そのノートは人前で出すなよ。
そんなこちらの様子を見て、作業の手を止めていた桐谷先輩が言葉をこぼした。
桐谷「たまに思うが、君達本当に兄弟か?」
確かに理解を超えた事をされると予想できないし対策できないのは、兄としてどうかと思う。
桐谷「そういう意味で言ったわけではないのだが」
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