03 けんか
一足早く帰宅して待ち構える。
小一時間後に帰って来た茉莉を問い詰めるも、楽しく遊んだの一点張りで碌な話は聞けなかった。
のらりくらりとやり過ごされて夕食を食べ、風呂に入ってリビングで宿題をしにかかる茉莉。
未来はその茉莉の対面に座って、問い詰める二戦目だ。
未来「茉莉。お前が付き合ってるって言う、そいつの事本当に信用できるのか」
茉莉「んー、よく分かんないけど大丈夫だよ」
そのよく分からん感覚がザルでない保証がどこにあるんだ。
荒い目から選定漏れした奴が、とんでもない人間じゃない保証はどこにある。
未来「お前、そいつに騙されてるんじゃないか」
茉莉「えー、そんな事ないよ」
未来「利用されてるんだ」
茉莉「ないと思うなー」
未来「そもそも茉莉に彼氏なんて似合わない」
茉莉「……未来」
茉莉は宿題の手を止めて、こちらを向いた。
察した。未来の発した不用意な言葉の数々が茉莉を刺激してしまったらしい。
いつもの様などことなく能天気そうな表情を引っ込めて、無表情でこちらを見つめて来た。
茉莉「うるさい」
そしてぽつりと一言、そして視線を元に戻して宿題にとりかかる。
それきり、無言の時間が過ぎていく。
……今なんて?
とか、聞ける雰囲気ではなかった。
本気だった。
本気で茉莉は怒っていた。
そんな反応をされたらこちらは口をつぐまざるを得なくなるではないか。
そうだ、こいつは普段はふわふわしているくせに一度怒りに火が付くと手が付けられなくなるのだ。
数えるに今までに数回しかないが、それでも鎮火させるために手がかかった事を覚えている。
それでも自分の為にではなく、人の為に怒る所が茉莉らしいと言えば、茉莉らしいが、そんな事は怒られた未来にとっては何の慰めにもならない。
いたたまれなくなった未来は、決戦に敗れた敗残兵のごとく、自室へと引きこもりに行くしかなかった。
空っぽの頭のままオートモードで何かしらの行動をとっていて、気が付いたら持っていた携帯電話から円の声がしていた。
円「そりゃ、怒るに決まってるじゃない。馬鹿なの? アンタ忘れたの? この間、路地でケンカして茉莉ちゃんが怒ってたの。女の子は、好きな人をけなされたら怒る物なのよ。まったく……」
そんなの詳しく覚えてない。相手を殴るのに夢中だったから。
というかその話、どう繋がるんだ。
その時けなされたのは、茉莉のいけすかない(断定)彼氏とやらではなく俺だが。
円「ていうか、彼氏は似合わないって……兄こじらせすぎよ。女はそういう言葉嫌うんだから、分かんない?」
俺は一体なんでそんな言わずもがなな事を聞くために、円に電話したのだろう。
分からない。
いや、何となく話を聞いて欲しかったのだ。
思考停止してたから、何か刺激が欲しかった。
円「しっかし、茉莉ちゃんが別の人を好きになるなんてね。おかしな事もあるものね、世の中には……」
?
未来「円、茉莉に他に好きな人間がいるのか」
いや、今までいたのか?
そんな素振り、一度も見せた事なかったのに。
円「気が付かなかったの!? やだ、何この鈍感、タチ悪すぎ。まあ、口をすべらせたアタシも悪いから、ヒントくらいは言うけど……」
円は知っていたのか。もしかして桐谷先輩も。だからあの時もあんな風に。知らなかったのは未来だけなのか。そんなまさか。未来が、兄である自分が……妹の事を知らない?
円「ちょっと。なんか大丈夫。通話口に死んでそうな空気が漏れ出て来てるんだけど。死んでないわよね?」
死んでない。死ぬのは茉莉の相手の方だ。
円「はぁ……。しょうもない奴。いいこと? これは円お姉さんのありがたい言葉だからしっかり聞いておきなさい。茉莉ちゃんはもしかしたらそいつの事好きじゃないかもしれないわ。アンタがもうちょっと茉莉ちゃんの事よーく見てれば、誰が本当に好きなのかちゃぁんと分かるわよ」
茉莉なら普段からよく見てる。
目が話せないし、勝手に向こうからこちらの視界に飛び込んでくるのだ。
これ以上よく見ろって言われても、どうすれば良いのか分からない。
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