07 1/11 カチューシャ



 翌日。


茉莉「ふぇ、未来……」


 待ちあわぜ場所に行けば、もう茉莉は来ていた。

 浴衣を羽織っている。


 真っ赤になってあたふたした茉莉は、いつもの様にこちらにくっついてはこないで控えめに手を振るのみだ。


茉莉「えっと、一緒に周ろー」

未来「あ、ああ」


 気恥ずかしさやらなにやらに頭を悩ませて気が付く。


 おかしい。

 茉莉か生きるか死ぬかの瀬戸際であるはずなのに、何だこの雰囲気。

 間が持たないと言うか、空気が重いと言うか、ぎこちなさがあると言うか。


 一歩分の距離を置いて隣に立った茉莉と、共に歩き出す。


 だが、さすが茉莉というか。

 茉莉は茉莉でしかなかったというか、賑わいを見せる会場の様子に徐々にいつもの様子へと戻って言った。


 正直助かった。


茉莉「未来。見て見てー、すごいよー」


 あっちの屋台に駆け込んでは、またこっちに。

 こっちの屋台に駆け寄ってはまたあっちにを繰り返している。


未来「あんまり歩くな、はぐれたらどうするんだ」

茉莉「平気だよー。だって未来が探しに来てくれるもんー」


 そこに俺の苦労は入れてくれてないよな。


茉莉「ほら見てー、未来また取ったよー」


 茉莉の歓声。

 その手には射的屋で取った景品がいくつもあった。

 あいつは何でかその手のゲームが子供の頃から得意だった。


 祭りで歩き周る事を考えて取ってるんだろうか。


茉莉「えへへ、欲しいのがあったら未来にも取ってあげるねー」

未来「その前に持てない分は返してこい」


 そんな風にして、出店を見回る茉莉に翻弄されながらも歩いていると、不意に空が明るくなった。


 花火だ。

 季節は冬だが。その質も量も夏と変わらない。毎年開催される祭りの有名なメインイベント。

 光の花々が暗い闇に彩を添えて、賑やかしく咲いてはまた散っていく。


茉莉「わ、わぁー。綺麗だね、おっきいねー」


 もっとよく見える場所を巡って色々歩き回って、何度か場所を変えた後、人気のない場所までやってきていた。


 周囲は森に囲まれていて、薄暗い。


茉莉「あなば?」


 立ち入り禁止区域とかではないといいのだが。


未来「茉莉、ちょっと目を閉じててくれ……」

茉莉「え? うん……」


 緊張した様子で目を閉じる茉莉に、俺は誕生日プレゼントとして用意したそれを取り出してそっと、茉莉の頭に乗せた。

 くすぐったそうに身をよじられる。


未来「もういいぞ」

茉莉「んー?」


 頭の違和感に、気づいて、茉莉が手を伸ばしてそれに触る。

 それは、ウサギの耳の様な大きなリボンが付いたカチューシャだ。


 こんな時様に百円でわざわざ購入してきた鏡を向ける。

 光源は花火だ。


 鏡面を覗き込む茉莉は目を丸く大きくして、はにかむような、春の

柔らかな日差しにとける雪解けのような笑みを浮かべる。


 抑えきれなくて内側からジワリと零れだしてきた感情が、幼なじみのあどけない表情に刻まれていた。


未来「誕生日プレゼントだ」

茉莉「未来からのプレゼント……」

未来「あんまり、装飾品とかつけないからたまにはそうやって飾るのも悪くないんじゃないか」

茉莉「ほんと? ねぇ未来、何か付けた方が良いー?」

未来「ああ、たまには」

茉莉「そっか、そっかー……」


 なにやら思う所があるらしい様子の茉莉だが、未来としては別にそんなに深い意味もなく、せっかく女に生まれて来たのだからお洒落しないのはもったいないと思っただけなのだが。


 まあ、世間一般からすれば、可愛くない方には分類されないぐらいには、可愛いとは思っているから。


未来「茉莉、まだ復讐したいって思ってるのか?」

茉莉「ん、ごめんね……」

未来「せめて、俺が何をしたのか、それだけは聞かせてくれないか。これじゃあ納得しようにもできない」

茉莉「……そうだね、分かった」


 考え込む素振りを見せる茉莉はこちらを見て謝る。


茉莉「ごめんね、本当は未来を恨むのは筋違いだって分かってるんだ」



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