05 未来を見る力



 茉莉の亡骸を抱えていると、円がやって来た。


円「アンタ達の様子がおかしいからしばらく監視させてもらったわ。まさか桐谷に能力があったなんてね」

未来「円……」

円「世界を元に戻しなさい、未来。正直ちょっと予想外だったけど、これで分かったでしょう。茉莉は救えない。だから世界を戻して。茉莉ちゃんとアンタが幼なじみじゃない世界に。そしたらそこにいたアタシが茉莉ちゃんを別の町に引き離すから」


 なんだそれは。


円「本の内容を見たわ。私の力は未来を見る力。茉莉ちゃんが別の人生を歩んでいるのを見てピンと来たのよ。あたしはあの時、茉莉ちゃんが手放された場所の近くにいた。だからそこで未来を見たのね、おそらくは。世界が滅びて大勢の人が死ぬ未来を」


 お前が、茉莉を神隠しに遭うようにしたのか。

 やっぱりお前やっぱりは敵だった……。


 でも、もうそんな事どうでもいい。

 世界の事も、他の人間も。


円「このっ、いつまでうじうじしてんのよ。さっさと決断しろって言ってんの。世界を戻して。アンタは絶対に茉莉を救えない。なぜならそれは、茉莉の復讐はアンタの大切な存在になって死ぬことだからよ」

未来「……?」


 そのおかしな理屈は何だ。どういう事だ。何で茉莉が俺の大切な存在になる事が復讐になるんだよ。


円「あの子の全部の気持ちも、わけも知ってるわけじゃない。でも。いつもの光景を見れば桐谷だって分かると思うわ。だってアタシ達三人は、たぶん……未来に同じ気持ちを持ってるから」

未来「説明してくれ」

円「あ、アタシに言えっての、そんな木っ端ずかしい事」


 分からないから聞いているんじゃないか。


円「本人でもないアタシが言えるわけないでしょ。……アンタ、アタシが最初から何もしないで仲間を切り捨てて、世界をとったとでも思ってるの? したわよ。色々。試したわよ。思いつく限り。今の時間になるまでにね。でも、どんな行動をとってもアタシに見える未来は変わらなかった」


 円は、己の手元に銀の燐光を纏うルーペを出現させた。

 それが彼女の異能の力をの発生元だろう。


円「だったら、守るしかないじゃない。守れるものだけを」





 円の言い分は分かった。

 世界が滅亡する因果関係も前の世界の事で。

 茉莉が神隠しに遭って生贄になければ世界は滅ぶ。

 だから円は、茉莉の身柄を欲して、神隠しとして異界に送ろうとして今まで動いてきた。


 くしくも、有栖を監禁した連中の考えは正しいと証明されてしまったわけだ。くそ、こんな事なら昔の古戸だか何とかって人間が代わりに生贄になっていれば良かったのに。


 茉莉は必要な犠牲だった。

 回避不能の仕方のない事だった。


 だが……。


未来「もう一度……」

円「あんた、まだそんな事」

未来「もう一度、だけ茉莉と話をさせてくれ。明日は誕生日なんだ。それで駄目なら、考える。だから……」


 あん風にケンカ別れしたのが最後だとは思いたくなかった。復讐についても聞いていないのに。

 円は呆れたような視線を向けてくる。


未来「頼む、円……」

円「いいわよ。好きになさい。それで未来が納得してくれるのなら。アタシだって好きで仲間と対立したいわけじゃないし」


 けれど、ため息交じりに結局はそう折れてくれた。

 円は背中を向ける。


円「ほら、さっさと行きなさいよ。仲違いしないように上手く説得する事ね」

未来「分かった」



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