04 決別
捜さないわけにもいかないので、こんな時に一人になるなと悪態を付きながらも心配で心配でしょがなかった。
いなくなられたら本当に困るんだ、アイツには。
いつも一緒にいたのに。
いまさらあいつがいないなんて……。
そう思っていると、いつも行く公園にその姿があった。
茉莉「うぇぇぇん。雪くん、未来がいじめるんだよ……」
雪高「茉莉ねえちゃん、そろそろ泣き止んでよ」
おろおろしながら慰めようとしている雪高と、泣きべそをかく茉莉の姿がそこにあった。
足音を殺して、極力音を立てないように近づいていくのだが……。
茉莉「あ」
雪高「あっ」
そのまま二人で、話でもしていてくれれば良かったのに、こちらの気配に気づかれてしまった。
茉莉「ばかっ。みらいばかぁーっ」
案の条、茉莉に逃げられてしまう。
急いで追いかける。せっかく見つけたのに見失ってたまるか。
雪高「未来兄ちゃん、茉莉姉ちゃんと喧嘩でもしたのか」
背後からそんな風に雪高の声。
ああ、そんなところだ
雪高「駄目だろ、姉ちゃん泣かせたら」
好きで泣かせてるわけじゃない。
雪高「そういえば茉莉姉ちゃんの誕生日、もうすぐだよな。ちゃんと仲直りしろよな」
未来「……」
言われなくてもするつもりだ。しないと困る。これからの日々が色々と。
しかし、誕生日か。
すっかり忘れていた。
茉莉の誕生日はもうすぐ、もうすぐの1月11日なのに。
衝撃的な事が起こりすぎていてすっかり頭から消えていたようだ。
茉莉は今、何を欲しがっているのだろう。
そう言えば、アイツの欲しい物を俺は知らない。
毎年、悩みながら送っているが、アイツが嫌そうな顔をした事などないから、何でも良いのかと思っていたが。
もうちょっとちゃんと考えてやった方がいいかもしれない。
茉莉はその後すぐに見つかった。
森の中、以前探索した場所だった。
あれからも何度か散歩している。
茉莉はその中で、開けた場所で、木の棒を使い魔法陣の様な物を刻みつけていた。一心不乱に。傍にある石には、大道寺三座から借りたというオカルト本。あれは確か魔術所か何かだったんだよな。本に書いてそう書いてあった。茉莉がいなくなって、力を求めていた未来の話の中で。
未来「茉莉」
茉莉「……」
無視された。
未来「おい、茉莉」
茉莉「……」
答えがないので、近づいてその肩に手を置くと。
振り払われた。
茉莉「助けてくれなんて頼んでない」
こちらを見ずに答える。
いつもみたいな口調じゃなかった。
無害そうで、お人よしそうで何も考えてなさそうな軽い声じゃない。
未来「何で知ってるんだ。この世界のお前は狙われているなんて事まだ知らないはずだろう」
本……。ひょっといて桐谷先輩の本を読んだのか。
茉莉「うん、でもそれだけじゃないよ。未来の顔を見れば分かる。薬の事気が付いたんだよね。置いてあった薬が無くなってたから。もう少し放っておいて欲しかったな。私のお母さんとお父さんは氷裏って人の部下なんだよ。放っておいてくれれば、どうにかなってたかもしれなかったのに」
放っておくなんてそんな事できるわけないだろう。
なんだよそれ。
知ってたなら、何で今まで黙ってたんだ。
何でそんな死にたがってるみたいな事言うんだ。
茉莉「あたしを助ける? 未来は何で、そんな事するの?」
未来「何でって、お前を助けたいからに決まって……」
茉莉「理由になってない」
未来「理由なんかいらないだろ。俺はお前にいなくなってほしくない。それだけだ」
それだけあれば十分だろ。
茉莉「あたしは未来に助けてほしく何てない」
未来「お前が助けてほしくなくても、関係ない。俺はお前を助ける」
茉莉「だったら……」
視線が合う。
いつも穏やかな光をたたえる瞳には、狂おしいほどの激情が宿っていた。
茉莉「何で、一番助けてほしかったあの時に助けてくれなかったの! いまさら助けなんて要らない、よりによって貴方なんかの助けなんて要らない。一番助けてほしかったのはあの時だよ! 辛くて悲しくて一人で泣いていたあの時のあたしなんだよ!! 遅いんだ!!」
茉莉「ねえ、どうして? 救いもある、仲間もいる、寂しくもないあたしよりも、何であの時のあたしを助けてくれなかったの? 今更そんな事言うなんて、助けようとしてくれるなんて、ひどい……。ひどいよ、未来」
茉莉「大っ嫌い」
あの時。
あの時って何の事だ。
分からない。
茉莉は何の事を言っている。
本に記録されていない出来事の事か?
茉莉は改変される前の世界の事を覚えているのか。
それとも、この世界で起きた出来事を未来が忘れているだけなのか?
思い出せない。
茉莉は一体何に怒っているんだ?
俺は俺の分からない所で、茉莉を助けられなかった事があるのか?
茉莉「子供の時、最初に未来に出会った時に思い出したんだ、全部。きっと会わなければ思い出しもしなかっただろうね。思い出してあげられなかっただろうね。だからあの時のあたしの代わりに、復讐しなくちゃいけないんだよ」
茉莉「自分を無条件で慕ってくれる女の子はどうだった? そんな子いるわけないのに、信じちゃった? 未来は馬鹿だね。お人よしなんだね。茉莉なんて最初から存在しないのに」
茉莉が演技をしていた?
嘘。
嘘だよな。
俺が今まで接してきた茉莉は、ちゃんと茉莉だよな。
茉莉じゃなかったなんて今更、そんな事言われたって。
茉莉「助ける気がなくなっちゃった? それとも憎らしくなってきちゃった?」
未来「……」
考えられない。
茉莉が茉莉であることは俺の中の常識で、それ以外の何かだったなんて言われても、そんなの信じられるわけがなかった。
茉莉「だからもう死ぬね。ばいばい、未来」
未来「……っ」
おい、待て。
何をするつもりだ。
復讐するんじゃないのか、俺に。
茉莉……!
明りのない、空へ手を棒切れを持ったまま手を伸ばす。
茉莉「星よ、落ちてきて」
暑い雲の合間から、まるで星が零れてくるかのように茉莉に光が集まって降り注いだ。
何だ。これ。
どうなってるんだ。
まるで魔法じゃないか。
何で茉莉がそんな魔法を。
そんな、綺麗過ぎる景色の中で、茉莉は星の光を浴びながら、何も言わずに静かに倒れた。
茉莉は死んだ。
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