03 1/10 毒



 茉莉の体調は順調に良くなっているようだった。この分ならすぐに動けるようになるだろうと安堵する。

 だがそんな中、驚くべき事実が付きつけられた。


桐谷「茉莉に処方された薬をいくつか調べてみたのだが、あれは薬などではなかった。毒物だよ」


 病気の茉莉が、飲みたくないと言った薬の正体についてだった。


 あの後、茉莉が飲まなかった薬をくすねて来たらしい桐谷先輩はその成分を調べたらしい。

 普通そんなところに気が回るか?

 いや回るから、桐谷先輩なのか。


未来「毒って……そんな、まさか」

桐谷「信じたくない気持ちは分かるが事実だ。注射痕の事といい、主治医が怪しいんじゃないかと最初私は睨んだ」

未来「医者、ですか」


 そう言えば、本の中でも茉莉の周囲に大量の薬が落ちている描写があったが、医者が関わっていると言うのなら納得だ。茉莉を付け狙う人間の中には医者でなくとも、医療に詳しい者がいるはず。

 茉莉が氷裏の情報についてこぼした、実験体Oの事も気になる。兵器を作るとか言ってたな。くそ、これだけじゃまだ分からない。


桐谷「だが、しかし。私の見立てによると白だったな、その医者は」

未来「え?」

桐谷「全くの白。登録されているだけだった。いや、むしろ茉莉はその医療機関にもかかった事がない。赤ん坊だった子供の時以外、一度もな」

未来「そんなはず……」


 一度も?

 そんなおかしな事があるだろうか。


 あいつは今までに何度か、病気をした事があるのに。


 それにいくら健康な人間でも、十数年生きていて医療機関にかかった事がないなんて、そんな事はありえるのだろうか。

 学校での健康診断はどうなる。

 予防注射は?


 混乱する未来に、桐谷はこちらが考えもしなかった言葉を述べてきた。


桐谷「茉莉の敵は茉莉の家族かも知れない。茉莉を狙う者達と背後で繋がっている恐れがある」

未来「な……」

桐谷「あくまで今の段階では可能性の一つだが、気には留めておくべきだろう」


 立ちくらみがした。

 嘘だろう。そんな事ありえるのか?





 基地の中で、二つの声が響く。


未来「いいから、もう家には戻るなっ」

茉莉「やだぁ、帰るーっ。未来この間からいじわるばっかり。ばかぁっ、いじわるー」


 一つは未来ので、もう一つのは茉莉のだ。


未来「俺は、お前の為を思って……っ」

茉莉「うぇぇぇぇん、ばかぁーっ」

未来「いてっ。こら、やめろ……」


 もう家に帰るなと言ったら茉莉とケンカになった。

 言い方が悪かったのかもしれない。


桐谷「困ったな……」


 桐谷先輩が、どうしたものかとこちらを眺めてくる。

 こんな事なら先輩の言う通り、事実を伏せて先輩の家に止めさせるべきだったかもしれない。


 それをしなかったのは茉莉に、もっと危機感を持ってほしかったからだ。

 こちらが守ろうとしても、肝心の本人に危機感が無ければ、守り通すのが困難になって来る。


茉莉「もうっ、やだっ。未来なんてだいっきらいっ」


 子供みたいな事をいって、茉莉はどこかへと逃げ去ってしまう。

 失敗だ。


 それにしても、大嫌いか。

 そんな事今まで言われたことなかったな。


桐谷「未来、気を落とすな」

未来「落として何かいません」

桐谷「そうか、今にも死にそうな顔をしているように見えるんだが」

未来「気のせいです」

桐谷「ふむ? まあ君が言うならそう言う事にしておこう」


 そう言う事にしなくてもそうなんです。

 ともあれ、試みは失敗だ。


 茉莉を追いかけながら考える。

 これからどうすればいいんだ。


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