02 1/8 薬



 桐谷先輩に言われた通り警戒していたが、妙な気配は今の所感じない。

 そうこうしている内に茉莉が風邪を引いて登校しなくなった。


 桐谷先輩と共に帰りに見舞いに行ってみると、ぐったりとした茉莉の姿がベッドの上にあった。

 顔を赤くして辛そうだ。


茉莉「うぅー。あつい」

未来「服の前はちゃんと閉めろ」

茉莉「だってー」


 ベッドの脇には未開封の薬の包みと、水の入ったコップ。

 確認した先輩が唸っている茉莉に尋ねる。


桐谷「茉莉、薬は飲んだのか。大分残っているようだが」

茉莉「苦いです」


 つまり飲んでないと。


未来「そんなんじゃ良くならないだろ。ちゃんと飲め」

茉莉「やだー」

未来「治らないと外に出られなくても良いのか」

茉莉「うぅ……、飲みたくないー」


 わがままな奴め。


未来「茉莉、ほら」


 薬の袋を破いて、近くに置いて会たコップの水と突きつけるが、茉莉はあろうことかベッドから飛び降りてその場から逃げ出そうとした。


茉莉「やだぁっ」

未来「おい、茉莉……」


 病人だと言うのにどこにそんな力があったのか、茉莉はパジャマ姿のまま部屋を出て行こうとする。


 慌てて追いかけて捕まえる。


未来「おい、いい加減にしろっ」

茉莉「ばかーっ」


 叫ぶ元気も残ってるのかか。

 そう言えば、前もこんな事あったみたいな事が本に書いてあったな。


 連れ戻そうと引っ張れば、茉莉は猶更激しく暴れて逃げ出そうとする。


未来「大人しくしろって」

茉莉「やだっ、ばかっ、やだーっ、へんたい」


 変態!?


 お前そんなじゃななかっただろ。

 どこでそんな言葉覚えて来た、お前。

 段々苛ついてきたので、一発お仕置きをおみまいしてやった。

 小さな茉莉の、まあ……お尻に……。いちおう軽めにだ。


 だが、良い感じで決まった、我ながらいい音を出したと思う。嬉しくないが。


茉莉「ひゃわっ、お尻がぁぁうぅ……」


 涙目になって、静かになる茉莉。その隙に連行しようと試みるのが次の瞬間、小動物が牙を向いてきた。


茉莉「うなっ」


 猫の様な掛け声と共に、爪がかすって頬に傷ができる。


未来「お前っ、この……」

茉莉「みらい、やだっ、ばかーっ。うえぇぇぇぇぇぇん」


 さすがに頭にきて怒ろうとしたのだが、

 その瞬間大泣きされて、怒りの感情の持って行き場を失ってしまった。


 こいつがこんなだから、いつもケンカになっても長続きしないのだ。


茉莉「みらいのばかぁ、うぅ……ぐすっ……ひっく。うぇぇぇぇん」


 背後に来た桐谷先輩の気配。

 振り返ると肩をすくめられた。


桐谷「まあ、無理に飲ませる必要もないだろう。ストレスは良くないしな」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る