第5章
01 1/7 不穏
……。
夢を見た気がする。
幼なじみの茉莉が大変な目に遭って、それで何度も同じ時間を繰り返すという。
茉莉「みーらいー。みらいみらいー。おーいみらいー」
部屋の外から、幼なじみの少女……茉莉の声がした。
珍しい。いつもなら坂道の手前で待っているはずなのに、何で今日に限って家にまで押しかけて来てるのか。
と、そう思った瞬間話題の主が顔を覗かせる。
パジャマだった。
妹?
とっさに変な事を考えてしまった。
何だそれは、どこからやってきた。
茉莉は幼なじみだろう。
茉莉「ふぁぁ、みらいー。ご飯できたって言ってるよー」
そうだ、昨夜は茉莉が勉強を見て欲しいとか言ってきて、家に泊まりに来たのだった。
茉莉「みらいー。ごはん食べよー。たべて?」
その格好で食べてとか言うな。
俺じゃなかったら誤解してるぞ。
茉莉「んー? 誤解? 食べるのはご飯だよ」
お前の頭の中ではな。
未来「まずお前が着替えろ」
茉莉「ふぁーい」
てくてくと歩いてく茉莉は、よほど眠いのか扉を閉め忘れていった。
寒いだろうが。
ベッドから出て、閉めに行く。
……と、まだ茉莉がそこにいた。
茉莉「えへへー」
締まりのない笑顔を向けてくる。
未来「機嫌が良いな」
茉莉はいつも大体こんなだが、今日はいつにもましてテンションが高いようにも見える。
茉莉「今日は良い夢を見たんだー。羽の生えた猫がいっぱいいるファンタジーな世界で冒険してる夢だよ。楽しかった!」
それは良かったな。
その内小躍りでもしそうなくらい、瞳を輝かせた茉莉はこちらに抱き着いてくる。そして、猫の様に頬をすり寄せた。
茉莉「んー。未来と一緒に行きたかったな」
所詮夢だろ。
茉莉「だって、何かファンタジーだからなんか怖いのもいっぱいいたし、たくさん追いかけられたんだもん。未来がいてくれたら平気だったのにー」
楽しい夢見てたんじゃなかったのか?
茉莉「夢は楽しかったです。でも、未来がいないのが寂しかったー。あたしねー、未来と一緒だったらたぶん大丈夫だったもん」
未来「……」
頭を撫でて、デコピンを一つ食わらしておいてやる。
茉莉「ひゃうっ」
未来「馬鹿な事言ってないでさっさと着替えろ」
茉莉「ふぁい。未来のいじわるー」
中学二年生になってまで、人にべったりくっ付いてくる癖はそろそろ治した方が良いと思う。
だが、だがそれが一向に治らないのは、未来が本気で治そうと注意していないから、というのもあるのかもしれない。
無条件の信頼が怖い。
茉莉はいつも何でか、心配になるくらい無防備にこちらを信頼してくる。
大した事をした覚えのない未来は首をひねるしかない。
聞いてもはぐらかされるばかりで教えてくれない。
扉を閉めて、て、着替えようとすると枕元においてあった携帯に着信が入っているのが見えた。
桐谷先輩からだ。
件名は短い。
本について話がしたい、だ。
学校帰りに基地に早めに向かうと、出迎えた桐谷先輩はとんでもない事を聞いてきた。
桐谷「未来、君は茉莉の体を見た事があるか」
未来「っっ」
会うなり何を聞いてくるんだこの人は。
尊敬してる事はしてるが、そう言う事を答えるかどうかはまた別の問題だろう。いや、見てないが。俺は誰に言い訳している?
桐谷「む? 間違えた。ちゃんと見た事があるか」
同じだろう。それ。
いつもうるさく喋っている円ならともかく、なぜ桐谷先輩がそんな話をしてくるのだろう。
桐谷「そんな、とはどんなだ? 私は茉莉の怪我の話をしているつもりなのだが」
未来「それを早く言ってください」
疲れる事を言ってくれるな、この人は。
いや、それより……怪我って。
桐谷「最初はただの偶然かと思ったんだ。だが不注意で受ける傷とは明らかに違う物を見つけてね、気になっていたのだ」
確かに、茉莉はたまに怪我をしている。
そのせいで、未来はバンドエードを常時三枚、持ち歩く癖がついてしまったくらいだ。
が、それはあいつが落ち着きがないからだと思っていた。違うのだろうか。
桐谷「その前に本の話をしよう、長い話になるからかいつまんで話すがね」
と、一旦本題を置いて、脇にそらした話は、そんなついでの様に話されていい様な物ではなかった。
過去改変に、茉莉の危機。どう考えても、緊急事態だった。
だが、慌てる未来を制して、桐谷は元の話へと戻る。
桐谷「茉莉の体に注射痕がある。この意味が分からない君ではあるまい」
未来「……そんなまさか」
桐谷「君が気づかないのも無理はない。大抵は服の下にある物だったからね。基地にある入浴施設を利用した際に気が付いたのさ」
そういえば数週間前に、ひどい雨がふって、天気予報が外れて大変な目に遭ったな。その時か。
未来「じゃあ、先輩は茉莉を狙っている人間がもう近くにいると……」
桐谷「そう考えてもいいだろう。今日の話はひとまずそれだけだ。混乱しているだろう。急いては失敗する。対策は明日考えよう。本の通りなら、今日はおそらく何も起きないさ」
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