03 それから
だが、小さな旅先であった少女との再会は叶わなかった。
なぜならそれから少し後の事だったからだ。
その少女が集団失踪事件、通称「初染の神隠し」に巻き込まれて行方不明になったのは。
四年後。
高校二年生になった未来は、再びあの場所を訪れていた。
久しぶりに訪れた隣町は、少しだけ寂れたように見えた。
公園に向かってみるが、当然あの少女の姿はない。
代わりに、声を掛ける者はいた。
???「あの、貴方が未来さんですか」
赤い髪の中学生の制服を来た少女だ。
???「四年前に、この場所によくいた女の子の知り合いですか?」
アイラと名乗ったその人物は神隠しの生還者だと述べた。
そして、未来が四年前に会った少女は死んでいるという既知の事実も話してくる。
たった数時間のやり取りであの少女の知り合いとなるのかは、未来には判断しかねる所だった。
取りあえずその時に会った事を話す。
アイラ「聞いてたんです、その子に。この場所であった思い出の事を。それでひょっとしてって声を掛けて……。まさか本人だったなんて」
という事は、アイラはあの少女の友人か何かだったのか。
アイラ「そうです。友達でした。大切な……。でも、守れなかった」
未来「教えてくれ、四年前に起こった神隠しは何だったんだ。何が起こったんだ」
自分でもよく分からないまま目の前の少女に尋ねていた。
何故だか分からないが、知らねばならないと思ったからだ。
アイラ「もっと細かく言う事も出来るんですけど神隠しは、生贄なんです。昔から色々な伝承や言い伝えが各地にありますよね。戻ってこれる人や戻ってこれなかった人、条件とか……」
生贄。
あの少女が、何の為に。
アイラ「こんな事を言っても、信じてもらえないかもしれませんけど。世界が滅びてしまわない為に、です」
訳が分からない。
じゃあ、何だ。あの子が、巻き込まれた者達が神隠しに遭わなけば世界は滅んでいたとでも言うのか。
アイラ「そうです。神隠しの世界……異界とこの世界は密接にかかわっていて、互いに切り離せない。深く結びついて影響し合っています。ですから、異界が必要だと判断した犠牲が出なければ、この世界は救われないんです」
怪異。いや違う。そんな物ですらない。そんな物はファンタジーだ。おとぎ話、空想の世界の話だろう。
信じられない。
アイラ「そう、ですよね。変なこと言っちゃってごめんなさい。久々に事情を話せるかも知れない人と会ったので、つい……。忘れてくださってもかまいません」
けれど、目の前に立つ人物。
アイラからは、嘘を言っているようには見えないし、そんな事を言うような人間にも思えなかった。
それに未来の感が告げているのだ。この少女は嘘をつくような人間ではない。言っているのはすべて真実だと。
言いたい事はたくさんある。
疑いも。
けれど、
未来「……あいつは最後どうなったんだ」
それだけは聞いておかなければならない、と強くそう思った。
アイラ「心を取り上げられて、人形の様になってしまって……それきりです。最後についてはごめんなさい。見てないんです」
それ以上詳しく聞けなかった。
それも当然だろう、ここではないどこか、異界で起きた事など、身も毛もよだつ話以外何があるのというのだろうか。
怪異に遭遇した人間の末路など、ほとんどの場合碌な顛末を向かえないのだから。
アイラ「アイツって言うなんて、親しかったんですね」
未来「いや……」
会って話したのはたった数時間だ。
それなのになぜ未来はこんな風に気にしているのだろう。そもそも、あの時もどうして出会ったばかりの人間の手伝いをしたのか、今も、昔も、ずっと分からなかった。
アイラ「ついてきてください。案内します」
どこへ、という疑問に彼女は答えた。
アイラ「共に異界へと姿を消した建物、私たちの学校にです」
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