10 コインの表と裏
氷裏「ここで、好き勝手にされちゃ困るなあ。大事なデーターを取っている最中なのに」
そこに現れるのは三人目。
未来に成り代わった氷裏だ。
円「未来? 何でアンタが? データーって何? どういう事。あんた氷裏の仲間だったの!?」
未来「違う! そいつは偽物だ。俺じゃ……未来じゃない……」
声を上げるが円に聞き入れてはもらえない。
裏切った奴に仲間と思ってもらえないのは別に良いが、こんな奴と間違えられるのはごめんだった。
円「アンタは黙ってて。未来、アンタが茉莉をこんなにしたの。アンタ茉莉の兄貴じゃなかったの。ねえ、どうにか言いなさいよ!!」
氷裏「少しうるさいよ。喚くしか能が無いのかい、小娘が」
氷裏が動く。
そう察知した俺は、つい声をかけていた。
未来「円……っ」
円「っっ」
剣が流れる。円が避けた背後のドアがひしゃげて砕かれた。
円「なにこれ。何なのよこれは。もう何がどうなってんのよ」
しかし、そんな有様を見ても、円は逃げる素振りを見せない。
身一つのくせに。
未来「殺されるぞ」
円「何で、アンタに心配されなきゃ……って、あんた。まさか……嘘でしょ、本当に未来なの?」
だからさっきから、そう言ってるだろうが。
何がどうなって未来が未来である証明になったのかは分からないが、とりあえずは円はこちらを未来だと認識しているようだった。
円「ねぇ、嘘でしょ。もう訳が分かんない……。何でアンタに呼び出されて殺されそうになる
お前こそ何を言ってるんだと言いたい。
未来を見た、それは本当なのか。
お前も、俺や茉莉と同じ能力者なのか。
円「未来、でいいのよね。茉莉を連れて逃げなさい。それで過去を変えるの。アンタにはその力がある。アタシが見た映像で言ってたんだから。だから変えて、この今を。お願い。こんな奴に仲間を渡すわけにはいかない」
距離を詰めて近づいてきた円は、こちらの体をふいに蹴飛ばした。
扉の無くなった部屋の外へと。
直後、何か大きなものが砕ける音が続く。
元いた部屋の中を確かめる勇気はなかった。
とても人が乱闘するとかそう言う次元の音ではなかったからだ。
茉莉を抱いて家の外へ。
人気がない。
通りを歩く人がいないのは助かっているのか、そうでないのか。
判断がつかないまま逃げる。
けれど、そんな逃避行もすぐに終わる。
氷裏「逃がさないよ」
背後からの斬撃を受けて未来は倒れ込んだ。
未来「――っ」
茉莉を固い地面に投げ出さないように、庇いながら。
氷裏「やれやれ、手間をかけさせるんだから。その子は返してもらうよ」
断る。
悪徳商人の偽彼氏なんかに、大事な家族を渡せるか。
氷裏「その返答意味があるのかい。何もできない弱虫のくせに」
断ると言ったんだ。
氷裏「まあ、いいけどね、好きにしなよ」
何かが背中を突き破ってきて、茉莉ごと未来を串刺しにする。
未来「あ……が、あぁぁぁぁ!」
痛みで思考が真っ白になる。
痛い。
とにかく痛い。
体を蹴り転がされて、茉莉を奪われて、ごみの様に蹴っ飛ばされて、そんな現実を乱れる思考でかろうじて認識しつつも、それでも抵抗一つ出来ずに痛みにのたうち回るしかない。
未来「……な」
行くな。
待て。
そいつを連れて行かないでくれ。
けれど、制止の声は出ず、姿は遠くなるばかりだ。
俺の大事な家族を、妹を……、大切な……。
途切れる意識の刹那、俺が思った事は……
思ってしまった事は……。
こんな思いをするなら、茉莉と出会わなければ良かった、と。
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