09 1/11 生存者
だけれども、俺は茉莉に助けを求めてはいけなかったのだ。
それを俺は、程なく思い知る。
桐谷先輩達がいる時間だけだけて、基地にいつく事にしたが
食べ物を持ってくると言った茉莉は翌日こなかった。
家に向かってみると、扉が開いていた。
室内に足を踏み入れると、血だまりができていた。
人が死んでいる。
未来「あ……あ、あぁ……」
その人は毎朝未来と茉莉と父親、家族三人分の朝食を作
ってくれて、洗濯をしてくれて、掃除をしてくれる人だった。
未来「母さん……」
未来と茉莉の母親だった。
リビングを出て、開け放たれた窓から庭に出ると、もう一人、緑の芝を赤く染めた人間が倒れていた。
未来「父さん……」
いつも、誰よりも先に家をでて誰よりも遅く帰って来る人。
父親が。
ミリア「茉莉……。茉莉は……っ」
部屋の中を探す。
台所も、洗面所にも、風呂場にも……いない。
階段を上がって二階。
茉莉の部屋へ向かうが、いない。
両親の寝室にも。
残るは一つ自分の部屋だ。
未来の部屋に向かって……。
未来「……」
茉莉は生きていた。
息をしている。肌も温かい。
未来「ま……つ、り……?」
けれど、何の反応も返さないし、動かない。
ベッドの上で、物の様になっているだけだった。
茉莉は死んではいなかった。
でも、生きているだけだった。
茉莉は体中に怪我をしていた。
あざが出来ているし、傷口から血が流れ出た後がある。
茉莉は薄っぺらい病院の患者が着るよう白い服を着ていて、寒そうなのに、何の反応も見せなくて。
茉莉の細い手首には手錠がはめられていて、茉莉はベッドの上の小さなスペースから動けないようにされていた。
茉莉の体の周りには、見慣れない錠剤が花でも散らすかのように散りばめられていて、足元付近には肌に刺さったら痛そうな注射器がむき出しのままで何本も転がっていて、頭にはよく分からないコードみたいなのがつながれていて、それで近くにある機械へ繋がっている。
未来「まつり……まつり……」
名前を呼んでも、体をゆすっても、頬を叩いても何の反応も返ってこない。
抱き上げて抱えると軽かった。
いつも、眠い瞼をこする茉莉をベッドまで運んでやっている時よりもだいぶ軽かった。
未来「俺のせいなのか。俺が助けを求めたから……俺のせいで、俺が……」
円「……そこにいるのは誰! アンタ、人の家で何してんの。その子を離しなさいよ」
声に振り返る。
そこにいたのは、あの時待ち合わせ場所に来なかった円だ。
未来「……」
円「聞こえなかったの? 離せっつってんの。それ以上汚い手でアタシの仲間に触ったら誰であろうと許さないわよ」
仲間、仲間だと……!
未来「ふざけるな。お前達が茉莉をこんなんにしたんだろ。分かっているんだからな、お前が氷裏とか言う人間と繋がっているのは」
円「何言ってんの? 意味分かんないんだけど。とにかくアンタ達に……茉莉を好き勝手にさせるわけにはいかないわ。ここで逃したらそれこそ、未来だって浮かばれない」
その言葉で、我に返った。
そうだ、今の未来は未来ではなく別の人間として周囲の物に認識されているのだった。
なら、今のセリフを信じるなら円は氷裏の仲間ではない……?
そんなはずはない。
なぜなら、こいつらは茉莉を狙って実際に攫おうとしたじゃないか。
円「だんまりってわけ、動かないってんなら力づくで……」
未来「円……」
円「うるさい、馴れ馴れしく人の名前を呼ばないで!」
会話は通じそうにない。
逃げるしかないだろう。
けれど、茉莉を連れて逃げ切れるのか。
こんな状態の茉莉を……。
下手したら、円達に捕まるよりも前に、警察に捕まりかねない。
かといって白だと言えない円の元に置いておくわけにもいかないというのに。
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