08 1/8 孤独



 半日経った。

 朝だ。日が差し込んで夜が明けたのに気が付く。


 桐谷先輩に電話をかけて訝しがられ、有栖や雪高には相手をされず電話を切られて。


 行く当てがないので基地で一晩を過ごしたのだった。


 どうすればいいかまるで分からない。


 いつまでもここにいたら、茉莉達がやって来て騒ぎになると分かっていたが動けなかった。






茉莉「んー、誰かいる?」


 茉莉がやって来た。

 もうそうんな時間か。

 窓の外は夕暮れ時だ。

見知らぬ人間がいるというのに、緊張感がないのは相変わらずだ。


茉莉「だれ?」

未来「……」


 何も言いたくなかった。

 自分の名前を言う?

 ありのままを話して信じてくれと訴えかける。

 無理だ。


 かといって、素直に謝ってここから立ち去っても行く当てがない。


 人が近づいてくる気配。

 茉莉が隣に腰を下ろした。


茉莉「だいじょうぶ?」


 心配してるのか?

 誰かも分からない、不法侵入者である俺の事を。


未来「茉莉……」


 顔を上げる。目が合った。やっぱり心配そうにしている。


茉莉「うん、茉莉です」


 何で名前を知ってるのー?


 そんな風に聞かれると思ったのに。

 それは俺を笑わせようとでもしてるのか。


茉莉「お菓子、食べる?」


 ポケットから出した、茉莉の好きな菓子の一つだ。

 かなりマイナーな菓子で、そこらに売っている物ではないから買いだめしている奴だ。貴重な物なのに、なんでわざわざそれを選んだんだ。


 もしかしたら。

 ひょっとしたら。

 そう思ってしまう。


未来「未来」

茉莉「?」

未来「それは俺の名前だ。俺の名前なんだ。聞いてくれ、茉莉」


 俺は、喋る。

 俺が未来であることを。

 俺こそが未来で、茉莉の兄で、俺の妹が茉莉で、俺が見て来た世界の事を、奪われた世界の事を。


 とめどなく、溢れた言葉を。吐き出す様に。


茉莉「そっかー、貴方は未来であたしのお兄ちゃんなんだねー」

未来「思い出した、のか……?」

茉莉「ううん」


 僅かな希望に縋り付くも茉莉は首を振ってその可能性を否定する。


茉莉「でもね、未来だったら助けてあげなくちゃ駄目だよねー」

未来「覚えてないのにか」

茉莉「だって、未来が寂しい思いをしてるのはやだもん。あたしは未来が困ってたら絶対力になってあげたいもん。だから貴方も未来なら助けてあげなきゃー」


 茉莉はこちらの頭に手を伸ばす。


茉莉「大変だったね。辛かったね。でももう大丈夫だよ。未来は偉いね、頑張ったねー」


 その後に会った事は格好悪いことこの上ないから省略するが、俺は妹である茉莉に、そのたった一人の理解に救われていた。


 世界が俺の居場所を失わせても茉莉だけは、俺の居場所を作ってくれたんだ。



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