06 孤立



 だが、意気込みに反して円は基地には現れなかった。呼び出しにも応じない。何故だ。

 同じ時間、前の時は現れたと言うのに一体どういうことか。

 手持無沙汰となった状態で、未来は基地の中で時間を持て余していた。

 学校はもうすでに始まっている。今さら行って何食わぬ顔をして授業を受けるなど無理だ。


 それに……。


 隣には同じようにサボリになった茉莉がいる。

 こいつを……大事な妹を、氷裏とやらがいる学校には行かせたくはなかった。


茉莉「未来ー、ねー何かあった? 怖い顔してるよ」

未来「気にするな」

茉莉「でも、気になるよ」


 茉莉から、表裏とやらの情報を聞きたい。

 けれど普通に話したとしても、情報を聞き出すのは無理だろう。

 それは前のやり取りで分かっている事だった。


 少し考えてから、桐谷先輩へメールを打った。


 内容は、

 隠し事をしている茉莉から、その内容を聞き出したい。どうすればいいか。

 ……だ。


 非常にふわっとした内容で申し訳ないが、そうとしか書けなかったのだ。


 放課になったのを先輩から待ったように、休み時間の時に桐谷先輩から返信が来る。


 内容は、

 とにかく何も言わずに未来が困っていると言えばいい。

 だった。


未来「……?」


 取りあえずそれだけでは分からないので、メールを読み進めていく。


 人間関係での隠し事なら、その人間に困らされていると言えば、あっさり口を割るだろう。だが、目つきの悪さは生まれつきだ。私は気に入っているよ。気にしなくともよい。


 詳しい事を話したわけでもないのに、微妙に内容がずれている以外は的確な情報だった。何で、未来が人に困らされていると分かったのか。頼りになるが、相変わらず理解できない秀才ぶりだ。


未来「茉莉、氷裏に困っている。力を貸してくれ」

茉莉「えー、未来困ってるのー。氷裏君と知り合いなのー? えー、どうしてー? 何でー? 何でー? 凄く困ってるのー? 分かったー。いいよー」

未来「……」


 何だ物分かりの良さは、主語をごまかしたぐらいでこんなにも対応が違ってくるものなのか。


 前の時はあんなに嫌がったじゃないか。

 お前が危険な目に遭うかもしれないと、散々言ったのに。

 

 分からない。

 後で桐谷先輩に詳しく聞いた方が良いかも知れない。


茉莉「氷裏君はねー。悪い子なんだよー。実験体『おー』をねー、捕まえようとしてるのー」


 目的は詐欺でも、生贄でもない?


 実験体O?

 その「おー」ってやつはアルファベットか?


茉莉「うーん、どーだろー。ぜろかも。でねー、皆を殺しちゃう為に実験しようとしてるのー。へいき、を作ってるんだってー」


 兵器。

 兵器ときたか。それも殺戮兵器。

 急にスケールが大きくなった。

 本当なのか。

 俄かに信じがたい。

 茉莉は何か勘違いしてるんじゃないだろうか。

 いや、そうだとしても情報は必要だった。


 しかし、その事と茉莉に一体どんな関係がある……。


 茉莉はちょっと、アニメやオタク知識に詳しいだけのただの中学生だぞ。

 間違っても、科学者や開発者などではない。というのに。


未来「世界平和……」


 前の時、円が言っていた事を思い出す。

 何が世界の為だ。

 思い切りやってる事が逆じゃないか。


 あの嘘つき女。


茉莉「あ、未来だめだよー。悪い顔になってるー。有栖ちゃんが見たら泣いちゃうよ」

未来「お前はその情報をどこで手に入れたんだ」

茉莉「んー。手に入れてないよ。茉莉は何もしてないけど、知ってたのー」


 そんなわけあるか。


 物覚えの悪そうな頭を掴んだ。

 言え、忘れてるなら思い出せ。


茉莉「やぁーだー。痛いよ、未来ー」


 頭をぐりぐりしたり、頬をつねったり、鼻をつまんだりしたが茉莉はそれ以上の事は何も喋らなかった。

 結局どこで得た情報なのかは分からずじまいだった。


茉莉「思い出すのは未来の方だよ……」


 そんな風に焦っていたから、茉莉が小さく呟いた言葉をその時はよく考えもしなかった。



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