04 円
その日は、学校をさぼってしまった事もあり、一人で基地で時間を過ごす事になった。
茉莉の方はどうしているだろうか。
探すべきか。いや、でも……見つけたとして何て言えばいい。
茉莉に暴力を振るうなんて。
信じてもらえなかったという事実が、胸に重くのしかかってた。
ややあって、携帯が振動。桐谷先輩からメールがら送られてきた。
桐谷『すまない。一人になりたいという君の意思に反する事になるが。君の力になれないかと思ってね。こんな物を調べてみた』
そういって彼女から寄せられたのは、神隠しに関する情報。場所はこの町近隣に限られているが、何十行もリストがあった。
未来「これは……」
桐谷『すまないな。私がもう少し口が上手ければ皆を納得させられたのだが、申し訳ない。気の利いた事を言って君を元気づける事も出来なかった。許してくれ』
未来「そんな」
あんな風に追い出すような扱いをしてしまったのに。
不満を言ったって、誰にも責められないはずなのに。
桐谷『困った事が合ったら時間がある時に言ってくれ、貸せる分だけの力は貸そう』
いつでもとか、何でもすると言わないあたり、桐谷先輩らしさが出ていたが、その一言がただただ、今の未来には嬉しかった。
桐谷は常から人に接する時の自分の態度を気にしている節があるが、そんなの未来からすればどうでも良かった。
彼女はこうして、一番困った時には必ず力を貸してくれる、優しい人なのだから。
未来「ありがとうございます、先輩」
それから、しばらくの時間を過ごして基地を後にする。
だが、事態は数日も待たずに急変する。
まったく予想だにしない形で。
基地からの帰り道で円に出会った。
その背後には数人の人。
普通の人間でない事は、発する雰囲気で何となくわかった。
無言でこちらに圧力を駆けてくる軍勢を背後に、円がこちらへ声をかけてくる。
円「ごめんね、未来少年。世界の為にアタシ達に茉莉ちゃんを渡してくれない?」
未来「何を言っているんだ」
円はまったくいつも通りだ。
いつ戻りにおどけたような軽い調子で、そんな事を言ってくる。
円「まさか、未来少年がそこまで事情を知ってたなんて驚きよね。いったいどこから調べて来たのやら。まさか名前通り未来から来た未来少年ってオチじゃあるまいし」
未来「これは、どういう事だ」
円「どうって、別にそのままの意味よ」
お前が茉莉を狙っていたのか。
だから、基地でもあんな風に発言したのか。
茉莉を守るために行動させないように。
円「……勘違いしないで欲しいんだけど、アタシ達は闇の組織とか悪の組織とかじゃなくって、れっきとした正義の味方なの。世界を守る為に必要な事をしてるだけなの。分かってくれる?」
分かるわけないだろうが。
お前らのせいで、茉莉は神隠しに遭って、ひどい……あんな風になって……。
円「神隠し。そうね。その子は生贄なの。世界平和の為の尊い犠牲。知ってるんだったら私達の言ってる事、分かるわよね。茉莉ちゃんはどこにいるの? 早く教えてちょうだい」
そんなの俺の方が知りたい。
いつでも傍にいて守ってやらなきゃいけないのに。
周囲に視線を向ける。
人が通りかかる気配はない。
だめだ。助けを呼ぶのは無理だろう。
自力で何とかするしか。
未来「円、お前の言ってることは分からない。世界平和だと? 茉莉を捕まえる事と何の関係があるんだ」
円「あら、知らないの? おっかしいわね」
首を傾げる円は隙だらけに見える。
だが、その背後には男達。
勝てるわけがない、何の力も持っていない未来に。
くそ、俺は肝心な時に何で何の力も持っていないんだ。
ただひたすらに力が欲しいと願った。
過去に戻る前に、俺は自分の無力さを思い知って。
それで、茉莉を守る為の力が欲しいと、思ったのに。
今ここにいる自分には、前の時に得た力すらない。
だから、それは天が授けてくれた奇跡なのだろう。
円「未来少年?」
気づいたら、目の前に銃が浮かんでいた。
天空に銃口を向ける銃。
この世ならざる物を示すよう光り輝く赤い銃。
円「まさか、アンタも能力者!? 皆っ、早くそいつを……っ」
円の背後にいた人物が一斉に動く、その手の中にあったのは銃器だった。
未来の物とは違う、現実の銃。
あんな物で撃たれたら、未来なんかは簡単に死んでしまうだろう。
だが、残念だ。それでは未来の邪魔はできない。
未来「……戻せ……っ」
目の前に浮かぶそれを掴み取り、天空へ向けて引き金を放った。
歪む。
景色が歪んで行く。
自分自身をも巻き込んで。
時を巻き戻すのだ。
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