03 瓦解



未来「茉莉」

茉莉「なにー?」


 俺は、部屋の重い空気に反して軽い言葉を投げる妹に尋ねた。


未来「今分かっている分だけで言い、氷裏の情報を教えろ」

茉莉「やだ」


 まさか間髪入れずに、否定の言葉を放たれるとは思わなかった。


 お前、自分の状況分かってるのか?

 危ないんだぞ。他でもないお前自身が。


茉莉「未来はちょっと、冷静になった方がいいよ。有栖ちゃんの事も、気づいてないの……?」


 何がだよ。

 何で、協力してくれないんだ。

 ほっといたら茉莉が死ぬんだぞ。

 仲間なら助けるのが当たり前だろ。

 それともお前たちは仲間なんかじゃないのかよ。


 それなら、もう当てに何か……。


桐谷「未来、それは……」


桐谷先輩が何かを言いかけるよりも前に……。


茉莉「未来っ」


 気づいたら、叩かれていた。

 誰に、茉莉だ。


茉莉「そんな事言っちゃ駄目、駄目です。ひどい事皆に言わないで」


 なんだよ。お前も俺の事信じてないのか?

 家族の事が信じられないって言うのか。


茉莉「そうじゃないよっ。あのね、未来は今とても良くないんだよ。だから悪く考えちゃってるだけなんだよ」


 俺の被害妄想だって、ありもしない出鱈目を吹いてるってそう言うのか。


茉莉「違うっ、違うよっ。うぅ……未来、話を聞いてよ……」


 ああ、聞くさ。話ならいくらでも聞いてやる。だから、頼むから話してくれ。お前がしようとしてる事はもう分かってるんだ。


茉莉「やだぁっ」


 こいつ。


有栖「あ……」

雪高「茉莉姉ちゃん!」


 有栖と雪高の声。

 気が付いた時には手が出ていた。


茉莉「ひぅ……っ」


 乾いた音がして、茉莉の悲鳴が上がる。


未来「……。っ、違う。今のは……」


 弁解しようとするが言葉が出なかった。


茉莉「う……ぐすっ、……ひっく、ぐす……っ。……ばか。……みらいのばかぁっ!」


 茉莉は未来に言葉を投げつけて基地から出て行ってしまった。


有栖「最低……」

雪高「未来兄ちゃん、ぶつなんてあんまりだろ」

有栖「雪、行きましょう。こんな、女の子に暴力振るうような人間と同じ空気吸っていたくないわ」


 そして、続く様に有栖と雪高も。


 基地に残っているのは先輩だけだ。


未来「……」

桐谷「未来、私は……」


 その表情からは、円たちの様な怒りや拒否感などは見当たらないが。

 今は、何も聞きたくなかった。


未来「すいません、先輩。今は一人にしてください」

桐谷「……そう、か」


 そうやって唯一味方になってくれたかもしれない人を、基地から追い払って未来は一人になった。



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