第3章

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 それは運命のいたずらとしか言いようがない出来事だった。


 誰だって混乱するだろう。

 ある日目が覚めたら、全く知らない二つの世界の記憶が頭の中に蘇って来たのだから。


茉莉「未来、どうしたの。何だか顔色が悪いよー」


 いつもの坂道、妹の茉莉と並びながら歩く未来は、頭を抱えていた。

 心配そうな茉莉に覗き込まれる。


 こいつが妹じゃなかった世界がある……。

 こんなに傍にいるのに。

 攫われていなくなった事も……。


未来「い、いや大丈夫だ」

茉莉「だいじょぶないよ。今日は学校休んだらー」


 そうしたいのはやまやまだが、家で怠惰に過ごすような気分でもないのだ。

 何かしなければならないといけない、そんな焦燥感がある。


茉莉「うーん、じゃあね今日基地にお菓子持っていってあげるね。未来の好きなおやつ買ってってあげるー」


 俺は貸し一つで気分を変える様な、単純じゃない。菓子だけに。何だこれ、下らないな。


茉莉「えー、そうなのー? あたしがあげたお菓子喜んで食べてたよー?」


 いつの話だ一体。


 そんな風にしていると、ふと茉莉が足を止めて立ち止まった。

 道端に落ちていた人形を拾い上げる。


 黒ずんだ人形と黒いドレスの人形で黒い髪の人形だが、汚れがひどすぎて、元の姿がどんなだったのか想像出来なくなってしまっている。


未来「変な物拾うなよ」

茉莉「えー、変な物って言ったら可哀想だよ。物にだって心はあるんだよー。たぶん? ねー?」


 たぶんで、物言わぬものに話しかけたりするのはお前だけだ。

 茉莉に抱かれた人形の顔についていた泥を払ってみる。

 汚れのしたの肌は意外と綺麗だ。

 

 汚れてさえなかったら、誰かが拾って持ち去っていたかもしれないな。


茉莉「でも、不思議だねー。今学校で流行ってる身代わり人形にそっくりだよ」

未来「身代わり人形?」

茉莉「うん、ある日。黒い髪に黒い服の人形が突然道路に落ちてるんだけどねー。それを拾っちゃうと、人形と入れ替わっちゃうんだって。拾った人は人形になってじっとしてなきゃいけないし、人形は拾った人に成り代わって、何事もなく生活し続けるんだよ」


 まあ、よく聞く成り代わりの怪談の派生型みたいなものか。


茉莉「でも、関係ないよねー」


 まあ、所詮ただの人の噂だしな。


茉莉「お巡りさんに届けてこ。こんな所に置いてったら可哀想だよ」


 交番ならこの近くにもある、大して遠回りにもならないし別にいいだろう。


茉莉「ひとりぼっちは寂しいもんねー」

未来「……」

茉莉「遊び相手もいないのはつまんないし。汚れちゃうのも寒いのも嫌だよね、だって女の子なんだもん」

未来「……」

茉莉「未来?」

未来「何でもない」


 星の部屋に捕らわれていた茉莉。

 仲間や知り合い、両親から離されずっと一人だった。


 あいつはずっと一人で、時間を過ごしてきっと怖い目にもたくさんあっていたはずだ。


 何とかして、あんな未来は回避しなければならない。


 けれど、この世界はいつも未来の望まぬ方向に進もうとする。


茉莉「そうだ未来、あのね。彼氏ができたんだよー」


 唐突な話題に驚く。

 記憶にある事を同じ事を言ったからだ。


未来「彼氏、だと」


 そして自分も記憶通りに発言していた。

 やはり、この頭の中にある記憶は、その内容は……ただの夢でもおかしな幻覚でもないのか。


 何もしないでいたら、またあんな未来になってしまう?

 あんなのが現実に?


 だって驚くだろうあの茉莉に彼氏なんて、=で結び付けがた……。くそ、似たようなこと考えたな。

 進歩がない。もっと他に考える事があるだろう。


茉莉「うん、できた」


 うんじゃない。

 そいつは駄目だ。駄目なんだ。お前がいなくなってしまう。


 未来は携帯を取り出して、めったに行使しない緊急収集権を使った。

 以前基地のメンバーが全員そろって時にやったゲームの、優勝賞品だ。


 笑い話で、何か困った時に使うと良いとそんな感じに話した事を覚えている。

 相手は桐谷先輩に、円に、有栖に雪高。


 使う時が来るとは思わなかった。


 基地メンバーは全員集合だ。



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