11 星の部屋の少女
そして一年が経った。
怪異を調べて、人為的に神隠しを起こし、羅針盤を使って探して。
茉莉は見つかった。
あの時見た暗黒の世界とは違う異界、ニエ=ファンデと呼ばれるその場所に。研
究棟という建物の一部、星の部屋に茉莉は捕らえられていた。
暗い研究室の中で、飛び込められていた茉莉は、あの時と変わらない姿で、けれど、痛々しい怪我を全身に負っていた。
アイラ「時間は長くはありません、急いで茉莉ちゃんを連れて、ここからでないと」
未来「茉莉!」
駆け寄る。記憶の中の姿とほとんど変わらない。
身長は延びず、あどけない顔つきもそのまま。少しだけやせてはいる。
大きく変わったのは髪の色と目の色だ。栗色の髪が金髪よりなおも薄い淡い金色……夜空に煌めく儚い星の輝きの様に変わっていた。翡翠になった瞳は、暗闇の中で、感情を移すことなく透き通ったまま。
茉莉「……」
茉莉はこちらを見ても何も反応しない。
泣く事も、こちらに縋り付く事も、駆け寄って来る事もしない。
伸ばした手を掴む事すら。
未来「茉莉、俺だ、分からないのか」
肩を揺するが、抗議が来るわけでもない。
身動き一つすらしない。声が聞こえているのかどうか怪しかった。
未来「茉莉……」
アイラ「未来さん、茉莉ちゃんは……」
間に合わなかったのだ。
未来は、茉莉をちゃんと助けてやることができなかった。
未来「嘘だろう。返事をしてくれ、頼む。そんな事……」
長い間ずっとお前と会おう事だけを考えて頑張って来たのに、言葉の一つも、意思の一つすら交わせないなんて。
駄目だった。無駄だった。
せめてあの時の自分に力があれば、茉莉を守ってやれる為の力があの時の自分にあれば良かったのに。
未来「茉莉……。頼む元に戻ってくれ」
帰る場所がもうないんだ。
桐谷先輩たちも円も、有栖たちだっていなくなってしまった。
あの後、魔湧きが発生して得体の知れない化物が世界中に溢れて大変な事になったんだ。
俺たちは頑張ったけど、何もできなくて。
みんな死んでしまった。
基地も家も、世界すらなくなってしまったんだ。
俺にはもう、お前しか残っていないのに。
お前だけがそんな絶望の中で残っていてくれたのに。
どうしてなんだ。
何でこんな事に……。
俺はいつ、どうすれば良かったんだよ……。
アイラ「追手がもう……! 未来さん、もう時間が……」
アイラの声。そして、周囲が騒がしくなった。
けれど、どうでもいい。
もう、何も意味をなさなくなった。
皆いなくなってしまったのに、自分だけ生きていても仕方がない。
未来「茉莉、また……」
差し出した手を細い首にかけた。
……今度もまた、会おうな。
こんな世界じゃない、平和な場所で。
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