10 三年前の神隠し



 アイラと言う少女が言うには、その事件は神隠しの様なものだったらしい。

 神隠し……。また怪異か。


 アイラたちは数年前、魔湧きを起こさない為の生贄として、数百人の生徒が用意され異界へと送られた。と、悲し気にそんな話をしてきた。

 なんだそれ、有栖の話とまるで同じじゃないか。


 三年前と半年以上前、百数十人の生徒と校舎と共に、この世界ではない場所に連れ去られてしまった彼女達は、未来が洞窟の先で見たような異空間に連れていかれ、順応できなかったものは順に死んでいき、最後にはアイラ一人だけになったのだという。


 それは神が与えた運命の試練なのだと、アイラは言った。

 人がこの世界で生き残る為には必要不可欠だった、避けては通れない試練。


未来「理解に苦しむな」


 その手の話に信用のない未来は、そんな感想しか返せない。


 だが、アイラは気分を害した様子でもなく頷く。


アイラ「そういう感想でいいと思いますよ。間違っても羨む事なんかじゃありませんから。私は自分が生き残るのに必死で皆を助けてあげられなかった。誰かに優しい言葉を掛けてもらえるような人間じゃないですし、理解されていい人間じゃないですから」


 知り合いを大勢失くした人間に言う言葉としては少し突き放し過ぎたかもしれない。


未来「悪かった」

アイラ「ふふ、茉莉ちゃんから聞いた通り。口はちょっと悪いですけど優しいんですね」


 あいつ、他に余計なこと言ってないだろうな。


未来「茉莉だったら、選ばれし人間なんていないとか言いそうだがな。楽しい事探して生きて行こうが口癖の馬鹿だから」

アイラ「そうですね、茉莉ちゃんならきっとそう言ってくれるでしょうね。彼女の明るい言葉に、何度心を軽くしてもらったか」


 馬鹿を否定しない所が良く茉莉の事を理解しているな。

 ネットとはいえ、付き合いは浅くないらしい。


アイラ「それで、最初の説明に戻ります。私の正体。それは……」


 アイラは手を差し出し、その手の平に炎を出現させた。

 茉莉が持っている能力とは違う。それは、直接的な力だ。


アイラ「魔人です。人ならざるもの。それが神隠しに遭った引き換えに私が得た力です」


 力、未来に今もっとも必要な物だった。


未来「それは、お前と同じ目に遭えば手に入るものなのか」

アイラ「力が欲しいんですね。そう言うと思いました、茉莉ちゃんが言っていた通り。未来さんは何かあっても必ず助けてくれるだろうって。信じてましたから。茉莉ちゃんは自分の身に何か起きるって知っていたみたいです」


 知っていたのか。

 アイツはこうなる事を。


アイラ「悪い人を調べてみるって言って……」


 馬鹿野郎。大馬鹿だお前は。

 なんで、何も言わなかったんだ。

 俺に。

 家族に。

 仲間にも。

 相談してくれても良かったじゃないか。

 何でなんだよ。


アイラ「そればかりは私にも」

未来「教えてくれ。力が必要だ。それは、どうすれば手に入る」


 説教する為にも、茉莉に会うためにも、どうしても手に入れなければならない。


アイラ「大道寺のお嬢さんって知ってますか。魔人にはなれませんけど、その人に会えば手に入れられるかもしれません」


 聞き覚えがある。円が怪異の調査を依頼されたとか言っていた人間の名前。いや、もっと前にも……そうだ、茉莉にオカルト本を貸し与えた人間の名前だ。






 そう言って連れていかれたのは、初染町に存在するでかい屋敷の一室だった。

そこは有栖の親戚が済んでいる家の近くだったので、地図を書いてもらった。

 面会したのは大道寺の跡取りで、三座みさと言う名の茉莉と同じくらいの歳の少女だった


三座「ええ、貴方のおっしゃるとおり怪異を調べていましたわ。かつては意識不明の友人の目を覚まさせるために、人ならざる力を求めて。そして今は、魔湧きに狂うだろうこの世界の終焉を防ぐために。協力してくださると言うのなら拒みませんわよ」


 中二とは思えない貫禄と喋り方で出迎えられた時は驚いたが、望みは繋がれた。


 そこで、未来は戦うための力を手にしなければならない。

 茉莉を助ける為に。



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