11 1/18~2/1 そしていつかへ
一週間が経った。
茉莉は戻ってこない。
情けない。
情けなさ過ぎる。
何故あの時、何もしなかったのだ。
なぜみすみす、見逃すような真似を。
けれどどれだけ後悔したって無意味だ。
時間はもう、どうやっても決して巻き戻らないのだから。
もういっそ無くなれと思う。
こんなふがいない俺は消えてなくなってしまえと。
そしたらこんな思いにとらわれる事など、ないのに。
何で、生きて何かいるんだ。
いっそ殺してくれ。
死にたい。
いや、そんなのは嘘だろう。
本当に死にたかったら、なぜあの時、勇気を出さなかった。
結局のところ、こんな後悔も本気ではないのだ。
決して不可能だと分かっていながらも、どうにかして許されたくて、取り戻したくて、形だけの罪悪に自ら溺れているに過ぎない。
海は深い。
けれど、未来は泳ぎ方を知っていたし、すがって身を休めるべき流木も近くに浮かんでいたのだから。
そしてまたいくばくかの時が過ぎた、ある日の事。
未来はその光景を目に焼き付けて思った。
運命という物は残酷だった。
狂気じみている。
どうしようもなく歪んで破たんしているのに、未来があるからと言って、今をどうしようもない結末へと運び続けていくのだから。
きっかけは些細な事だった。
決して浄化することのできない、未知の物質を含んだ黒い水たまりが各地に出現した。
次第に数を増やしていくそれは、どうやら生き物には有害だったらしい。
触れたものが意思ある者なら、皆等しく狂気で侵していったのだったから。
ドミノ倒しの様に被害が広がる頃には、世界中で黒い水たまりが現出していて、嘘みたいに人の手に負えない状況を作り出していった。
国を担うような権力を持つ人間や、功績を刻んだ偉人ならともかく、ただの学生で一般人である未来達に足掻けるわけがない。
未来「桐谷……先輩っ、返事をしてください……っ」
動かなくなった知人を背負って歩く未来の足は重い。
背後からは無数の生き物達の足音が聞こえてくる。
人間も動物もきっといる。
でも原型は留めていない。狂気に侵され、人ならざる物へと変化してしまったただの肉塊だ。
もう、駄目かもしれない。
何でこんな事になったんだ。
こんな事になるなら、駄目でもどうせあの時に茉莉を守る為に行動しておけばよかった。
あいつがいてくれれば、こんな症状でももう少しくらい前を向いていけていたかもしれにないのに。
何でこんなに無力なんだ。
未来は守れない。
守りたいと思た人たちは、誰も。
円も有栖も雪高もいなくなてしまった。
そしてきっと背負っている先輩すらなくしてしまう。
当然だろう。
ここにいるのは物語に出てくる主人公でも、英雄でもないただの人間なんだ。
出来る事には限度がある。
けれど、それでも……。
未来「っ……」
追いつかれた。
ぐずぐずにとけた肉塊が目に入ってしまた。
視界に入れるのも恐ろしい何か。
地面に引き倒される。
背負った先輩ごと倒れ込んだのだ。
桐谷先輩を地面にぶつけないようにしたせいか足をひねったらしい。
もう無理だ。
走れない。逃げられない。
狂気に侵された人間達に、なぶられながらも、せめてよく見知った人だけはひどい事にならないように体の下にかばう。
あの時茉莉がやったように。
何だ。できるじゃないか。俺でも。
だったらもっと早くやれよ。遅すぎなんだよ。
未来「……ま……つ、り……、せん、ぱい……」
無謀でも馬鹿でも、身の丈に見合わない大それた願いだとしても……俺は守りたかった。
もし次があるなら、神など到底信じてはいないが、それでも次の機会があるというのなら、今度は決して間違えない。
勇気を出せ、大切な人達を守れ。
未来「……」
次は絶対に間違えない。
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