明日昨夜の慟哭
なんで……なんでなんで先輩はいつもわたしのことを泣かせるんですかっ!
ようやくここまで来たのに……わたしと同じ作家になれたのに――!
日本で最も売れているわたしが最初に認めた才能なのに――!
わたしが創作の世界に入るきっかけを作った恩人なのに――!
わたしの初恋の人で、わたしが婚約を誓った相手で、わたしがいくら迫っても絶対に落ちなかったのに……なんでこんなあり得ない理由で死んでるんですか――!
幼女を助けてトラックに轢かれるとか、テンプレすぎるじゃないですか――! わたしが編集者だったら全面改稿ですよ!
今どき流行らないですよ、そんなの――。
なんで……なんでっ! ばか! 先輩のばか! 先輩のばかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
わたしは締め切りの迫った原稿そっちのけで、テキストエディタに文字を叩き込んでいた。
そうすればバカみたいな現実が創作になって、先輩が生き返ってくれるかもしれないと思ったから。
でも、そんなことが起こるわけはなかった。創作はあくまで創作で、現実はあくまでも残酷な現実だった。
売れっ子作家になって頂点にまで昇り詰めたわたしは、何度も先輩に編集者を紹介しようとした。
だが、創作に対してどこまでも真っ直ぐでバカな先輩はわたしのツテコネを決して使おうとせず、愚直なまでに原稿を応募し続けた。
しかも、わたしが審査員を務める賞には絶対に送らなかった。私が口を利く可能性を排除したかったのだろう。
どこまでもバカ正直でバカ真面目な先輩らしかった。バカなものを書いているのに、変なところで真面目だった。そんなところに、やっぱりわたしは惹かれていた。
先輩の心はずっと妻恋先輩から離れなかった。でも、先輩はわたしと会うたびにわたしの作品に対して熱い感想を述べてくれた。それは大手書籍流通サイトや書評サイトの絶賛レビューよりも、何万倍もうれしかった。
わたしは、先輩にだけ私の作品を読んでもらえればよかった。アニメ化も、映画化も、シリーズ一千万部ヒットも、わたしの心を震わせなかった。
わたしは先輩が作家としてデビューしてくれることだけを願い続けて、いつかわたしと同じ舞台で戦い、わたしを追い抜いてくれることだけを夢見て――ずっと書き続けてきた。
わたしに創作の楽しさを教えてくれた初恋の男の子――。恋愛の軍配は妻恋先輩に上がっても、創作に関する一番の理解者でライバルはわたしのはずだった。
それなのに、なんでこんなところで死んでるんですか。そんなの、滅茶苦茶じゃなないですか。なんで、本当に……!
ばか……先輩のばかぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!
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