末広新次の思い
映画が始まった。
俺が世に出した最初で最後の作品――。
魂だけとなった俺は、賞の結果が気になりこの世にとどまっていた。
幼女を守ってトラックに轢かれて死ぬなんて、ギャグ作家らしい最後だったかもしれない。……いや、その時点じゃワナビか。生涯ワナビだったんだな俺。それもまた人生か。
俺は貸し切られた映画館の中程に立って、自分の作品が上映されるのを待っていた。関係者しか入れないが、幽霊となった俺にはノープロブレム。係員をスルーして入らせてもらった。
後方の座席に座るのは、俺の作品を選んでくれた編集者、審査員、アニメに関わってくれた監督や声優さん。
そして、前のほうのいい席には俺の見知った顔が並んでいる。
まずは、俺の両親――。ほんと、出来の悪い息子で申し訳なかった。印税で少しはこれまで苦労かけたぶんを返せただろうか。
次に、今や日本を代表する売れっ子作家になった蔵前。
ほんと……俺が創作の世界を教えたあの小さな女の子が売れっ子作家になるとは思わなかった。俺の分までこれからも売れまくってくれ。……俺、お前がパソコンで執筆してる横でいつも原稿読んでるからさ。
最後に……妻恋先輩……いや、俺の最愛の妻……希望。
本当に苦労をかけた。希望に出会わなかったら、俺は書き続けることはできなかった。希望のおかげで、俺は夢を叶えることができた。こんな俺を愛してくれて、本当にありがとう。俺も愛している。
最後の最後に……和菜美。アホなとーちゃんでごめんな。
いつか俺の本を読んでドン引きする日がくるかもしれないけど、映画はシモネタは規制してるみたいだから、楽しんでくれ。
小説家を目指すのは……まぁ、かなり苦しいのでオススメはしないが……どうしても夢を追いかけたかったら、自分が納得いくまでやればいいと思う。ただ、俺みたいにあまり周りを悲しませるなよ。
いよいよ、映画館内が暗くなっていく――。
そして、オープニングが始まる。
ラノベ作家として出版した俺の最初で最後の作品。みんながいたからこそ完成した奇跡の作品。
夢を追うバカなワナビの話だ。
笑って、ドン引きして、せつなくて、最後には泣けるかもしれない作品――。
さあ、みんな楽しんでくれ。
俺は、みんなを楽しませることがなによりも好きだから――。
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