第四章『原稿の完成~楽しませるためにこそ作品を書く~』

謎のモテ期到来

 相変わらず世界経済は安定しないが、とりあえず俺の半径五キロメートル以内はいつも通りだ。カジノ王の大統領は俺に五億円ぐらいくれ。


「おーい、朝だぞ。ごはんですよ」


 パジャマ姿で寝ている来未の脇腹をつま先でちょんちょんと突いて起こし、怒声を浴びせられ、一緒に岩海苔でご飯を食べる。二度寝する来未に労働のすすめを説いたあとで、学校へ向かう。


 学校は、相変わらず退屈だった。今日は日本史の教師による地元のマイナー武将の最期を語るコーナーに、一部の生徒は落涙し他の連中はドン引きしていた。

 ちなみに俺は一部の生徒側である。やっぱり落城話と討死話は泣けるなぁ……滅びの美学ってやつだ。


 そして学食ではたぬきうどんとカレーを食べるかいつも通り迷ったもののカレー星のカレー星人たる俺はやはり運命に抗えずにカレーを食べる。


 これも、いつものことだ。蔵前が、トレーを持って隣に座って山菜うどんを食べる。そして、妻恋先輩もサンドイッチを持ってきて、俺の隣に座る。これも、繰り返されてきた日常――、


「って、どうしたんですか妻恋先輩まで」

「えっ? め、迷惑だったかな……ご、ごめんなさいっ」

「い、いえっ! とてもそんなことはありません! 歓迎します!」


 というか、今まで妻恋先輩は三年のクラスの女子グループと食べてたはずじゃ……。


「……先輩。わたしのときと、えらい反応が違いますね。さすがのわたしも傷つきますよ? さらにヤンデレ化して自宅に監禁しますよ?」


 く、蔵前、お前は、俺に密着しすぎ……そ、そんなに胸を押しつけてきて、恥ずかしくないのかね、チミは。


 文芸部オールメンバー。両隣に学内トップクラスの美人女子生徒に並ばれると、周囲の男子からのプレッシャーがものすごい。いや、女子の一部からも殺気がビンビン来ている。蔵前はともかく、妻恋先輩は百合属性の女の子の憧れの存在なのだ。


 そのうち、学園内で狙撃とか辻斬りとかされるぞ、俺……。ライフル射撃部と剣道部を敵に回すのは嫌だ。……うっ、なぜかわからんが柔道部の重量級の男まで俺を熱っぽく見ている。そ、それに、妻恋先輩に告白したことがある女子の後輩たちからは氷のように冷たい視線がっ! 


「あの……俺、いろいろと身の危険を感じるんですが……」


 飲み物であるカレーすら、喉を通らないレベルだ。


「それじゃ、部室で食べます?」

「あっ、それいいですね。行きましょう、新次くん」

「あ、あうう……」


 早くもトレーを持って移動し始めた二人に、俺もビクビクしながらついて行く。


 すごい背中に視線を感じる。かなりの数のネガティブな視線が俺に集まってる。 う、うわあ……。現実はやっぱりそう上手くいかない。ラノベのようなハーレムをやってたら、そりゃ周りから顰蹙買うわな。

 妻恋先輩も蔵前も、なんだかんだで学園トップクラスの美人だし。

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