第二章『ワナビと過去と女の子』

生存確認と朝ごはん

「んー、むにゃむにゃ……」


 朝。軽く食事を作ってから部屋に生存確認に行くと、来未はよだれを垂らして寝ていやがった。ついでにパジャマの腹の部分が出てヘソが見えている。いつものメイド服姿ではなく、妻恋先輩からもらったパジャマ姿だ。ついでにいうと、猫柄だ。


「おい、起きろ、居候」


 俺はつま先を伸ばして、来未の脇腹をつつく。


「……っ!?」


 女の子特有の柔らかい肌の感触に戦慄した。というか、いくら子孫でも素肌につま先で触れるのはよくなかったかもしれない。だ、だが、それでも早く起こさないと。朝ごはんが冷めてしまうっ。それはいかん。


 ちなみにカレーは来未が昨夜食べてしまったらしく(夜中にまた食べた形跡があった)、今日の朝ごはんは俺の手作りだ。


「めしだぞ、めし!」

「……んん……ご、ごはん……」


 反応があった。まだ完全に覚醒してはいないようだが……。


「ほんと、食い意地の張ったやつだな……」


 ただ、その無邪気な寝顔は、かなりかわいい。起きてるときはやかましかったり執念深かったりと面倒なのだが……。


「そうだ。めしだごはんだぶれっくふぁーすとだ! ほら、さっさと起きないと全部俺が食べちまうぞ?」

「ダメ、ゼッタイ!」


 来未はものすごい勢いで跳ね起きた。


「はっ、ごはんは!?」


 そして、あたりをキョロキョロと見回す。


「飯は向こうだ。ってか、まずはよだれ拭け」

「って、なんで乙女の寝室に土足で踏み入ってるのよ! このド変質者!!」

「しかたねぇだろ! もしかしたら、やっぱり昨日のことは夢だったんじゃないかと思ったんだから! ……って、さっさと家を出ないと学校に遅れるんだっての! 飯早く食うぞ!」


 もう、妹というよりもぐーたら娘の世話をする母親のような気分だった。いや、ぐーたら子孫か……。なんで、先祖(?)の自分が子孫のためにこんな気苦労を抱えなければならないのだろうか。いや、そもそもコイツ本当に俺の子孫なのか? やっぱり、ただの家出とかって可能性も……。


 いまだ解けない疑問を感じながらも、俺はご飯を茶碗に盛ってやった。

 昨日妻恋家からいただいた茶碗や箸のおかげで(新品)、助かった。

 本当に妻恋先輩と妻恋先輩の母上には感謝だ。


「ほんと、先輩にはお礼を言わないとな……」


 フッた相手の正体不明の自称生き別れの妹に対して、ここまでしてくれるなんて。……昔から、先輩には世話になりっぱなしだ。申し訳ないぐらいに。いつか恩返しをしたいと思っているが、フラれた直後の俺がそんなこと考えてるとストーカーみたいでマジでキモイ。うう、こんなことになるなら告白しなければよかった……。


「ふふん。あたしのおかげでふたりの仲は再び接近? もぐもぐ」

「黙って食べろっ」


 まぁ、来未のおかげでなんだかんだで妻恋先輩と会話できて、変に意識しなくてすむようになったのはありがたいけど。


 ともかく、ご飯と味噌汁と目玉焼きとウインナーの適当な食事を済ませると、俺は学校へ行く準備をした。昨日の騒ぎで教科書も入れ替えてなかったので、慌てて入れ直す。


「……それじゃ、俺は学校に行くからな。お前は近くのコンビニに行って無料求人誌でも取ってきて、労働のなんたるかについて考えろ。家出て左側の道を真っ直ぐ進んだところにあるから」


「食べたら食休みが基本!」

「食休みは認めるが、そのあと絶対に取りにいけよ。で、ちゃんと仕事を探せ」

「……うー、わ、わかったわよぅ、もうっ」


 念を押されて、さすがの来未も頷いた。一応、ごく潰しの罪悪感がまるで無い訳ではないらしい。まぁ、俺も学生の身なので偉そうなことは言えないんだけどな……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る