紙袋から危険物

 夜道を歩いて再び我が家へ。俺は鍵を開けて、玄関、廊下の電気を点けた。


「ええと、お、お邪魔します……」

「たっだいまー!」


 妻恋先輩と来未も続いて家の中へ入る。とりあえず、玄関から近い客間へ移動する。ちなみに、冷めたからか、カレーのにおいは漂っていなかった。


「ええと、それじゃ、開くねっ」


 妻恋先輩はトランクを開けて、中から服を取り出す。


「わたしが前に着ていたお下がりで申し訳ないんだけど……あ、気に入らなかったら捨てちゃってもいいからねっ?」

「わあ♪ ありがとー、希望お姉ちゃんっ♪ すりすりすり~♪」


 来未は猫が愛情表現をするように妻恋先輩に身体をこすりつける。


「わ、わっ……♪ くすぐったいよっ♪」


 猫(来未)と戯れる妻恋先輩、かわいいなぁ……。これは、天使ですわ……。あ、天使なのはもちろん妻恋先輩であって、来未は小悪魔だけど。かわいくても来未は俺の中では天使認定できない。


「希望お姉ちゃん、いいにおいするっ♪ ずりずりずりー♪」

「んんっ、ぁっ……そんな頬ずりされたらぁっ……だ、だめぇっ、来未ちゃんっ……ふぁぁっ」


 来未の頬ずりプレイに、なぜか艶っぽい声を上げてしまう妻恋先輩。

 う……うらやまけしからん!


「……ば、ばかやろうっ。妻恋先輩が困惑及び迷惑してるだろうがっ! は、離れろっ……! 一秒以内に離れろっ!」

「べ~っ! 本当はうらやましーんでしょ?」


 いたずら猫と化した来未は先輩に抱きついたまま、こちらに向かって舌を出した。


「ばっ、ばばばばばばっ!」


 図星を突かれて、俺は壊れかけた。ばかやろうっ、そんなことぜんっぜん思ってないんだからねっ! 勘違いしないでよね! 混乱のあまり俺も心の中でツンデレ新次くんモードになってしまった。


「あ、あのっ、そのっ、ええとっ、あぅ……」


 先輩も顔を赤くして、この状況に当惑しているようだった。その間も来未は頬ずりをやめない。くっ! やめろっ! いやっ、やめるなっ……! いやいや、ちょっと見ていたいけど、やっぱりやめるべきだっ!


「ほら、いい加減にしろっ!」


 俺は来未の両肩を抑えて、強引に妻恋先輩から引きはがした。


「すみません、妻恋先輩。こいつ、知能が猫並みというかそれ以下なんで……」

「う、ううんっ……き、気にしないでねっ……な、なんだか齢の離れた妹ができたみたいでわたしも新鮮な気分だからっ」


 そう言って来未の狼藉を許してくれる慈愛に溢れた天使・妻恋先輩。あなたが女神か。


「ええと、とりあえず紙袋の中身も出してみますね……」


 俺は、妻恋先輩のお母さんから渡されたものを出すことにした。

 内容は……いずれも新品の歯ブラシ、洗面所で使う用のプラスチック製のコップ、ガラス製のコップ、湯呑み、茶碗、箸、スリッパ、ツナ缶、スナック菓子、箱ティッシュ、ゴム製の避妊具。

 うん。日常で使う生活必需品がいっぱいっ……って、なんじゃ最後のモノはぁああああああああ!?


「わ、わ、わわわわわっ……!? お、おかーさんっ……!?」


 妻恋先輩も顔を真っ赤にして慌てていた。というか……冗談きつすぎますよ、妻恋先輩の母上……。いや、これはわざとじゃなくて天然のなせるわざなんだろうけど。それにしたって、いかんでしょ、これ……。さすがの俺もドン引きである。


「……ふにゃ? なにこれ?」


 それがナニに使うものか知らないらしい来未は手に取る。


「ちょ、触るな! 爆発するぞ!」


 俺は近藤さん(仮)を来未の手からひったくる。


「ご、ごめんねっ、新次くんっ! こ、これ、責任もって持って帰るからっ!」


 妻恋先輩は俺からコンドーさん(仮)をひったくるようにして奪った。

 うああああああ! 清楚で女神な妻恋先輩の手にコンドーさん(仮)が……! なんというギャップ萌え! い、いかん、みなぎってきてしまうっ!


「そ、それじゃ! わたし、帰るねっ!」


 気まずくなったのか、妻恋先輩は全力で帰ろうとする。……本当に、とんでもないところに地雷があったものだ。妻恋先輩の母上、ありがとうございます、いいものが見られました。心の中で拝んでしまう。あなたが女神だ。


「にゃ?」


 よくわかってない様子の来未だが、そのまま知らんでよろしい。というか、俺に聞くなよ、絶対に。気まずくなるだけだからっ!


 てっきりコンドーさんの存在は知ってると思ったが(襲われるだのケダモノだのどーてーだのの発言をしてたから)、耳年増なパターンか。


「……そ、それじゃ、わたしっ、帰るねっ! ご、ごめんなさい! あ、トランクはそのままでいいからっ!」


 妻恋先輩はコンドーさん(仮)をポケットにしまうと、立ち上がって帰宅しようとする。


「あ、送りますよっ!」

「あ、う、ううんっ! い、いいよっ! 大丈夫っ!」

「い、いやっ……まぁ、もう九時近いですしっ」


 ほんと、コンドーさん(仮)のせいで、なんか一緒に歩くとか気まずくって仕方ないんだが……やっぱり俺は妻恋先輩が心配である。


「あたしもいくー! ……にゅふふ♪ また食べ物もらえないかにゃ~?」


 本当にこいつの食欲は浅ましいほどだ。畜生め。

 ……まぁ、ふたりだと気まずいから、こいつもいたほうがいいだろう。変に意識するよりかは。


 ともかく、俺と妻恋先輩と来未と近藤さん(仮)は妻恋先輩の家へ再び向かった。


 そして、妻恋先輩は家に帰るなり「おかぁさんっ……!」と、顔を赤くして涙目になりながらキッチンへ向かっていった。……おいたわしや。


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