第二話 サンタ代行業務

「つまり、私にサンタクロースの代理をしてほしいと」

 小屋のなかに案内され、座り心地のよい椅子に座らされ、丸いテーブルに紅茶を出され、といらぬ歓待を受けながら、私は仏頂面で子供の説明を繰りかえした。

「うん!」

 向かいの席に座った子供は無邪気に笑う。

「病気のサンタに代わって、プレゼントを配って歩け、と」

「うん!!」

「病気のサンタに代わって、ふざけた橇に乗って、煤で汚れた煙突のなかに侵入し、顔も知らん誰かが吊るした靴下のなかにプレゼントを突っこんでこい、と」

「うん!!!」

 私は途方に暮れた。

 子供の話をまとめるとこうだ。人間たちに夢と希望の詰まったプレゼントを届けるはずのサンタクロースが、なんと、この冬に大流行したインフルエンザにやられてしまったらしい。

 クリスマスになっても容体はよくならず、仕方なくサンタは代理人を立てることにした。

 そして、その代理人に私が選ばれたという。

 つまりは、サンタクロースの代行アルバイトをしろ、と。

 ああ、いったい私の身になにが起こっているというのか。私は死んだはずだ。なのになぜ、こんな馬鹿げた事態に……そもそもなぜサンタが病気になるのだ! 解せん! サンタクロースというのは神の領分にある存在ではないのか!

 いや、それ以前に。


「なぜ、私なんだ?」


 そう、なぜ私なのだ。

 私は人間で、しかも死人だ。ついでに言ってやれば、私はサンタクロールなんて仕事にはまったくもって向いていない。赤の他人にプレゼントをくれてやる気はさらさらない。もらうのだってごめんだ。

 さきほども言ったが、生来の私は他人との付き合いを嫌っていた。友情ほど厄介に感じるものはなく、時に家族の情愛すらも厭わしく思っていた。自分でも滑稽なほどに性格のひねくれた「頑固じじい」だったのだ。だからこの子供が迎えに来たときには、神の寛大さに感動したわけだが……まさかこんな落とし穴があったとは。

 子供は私の問いかけに、罪がなさげに小首を傾けた。

「わかんないけど、サンタさんがそうしろって」

 なんだそれは。

 ひどく騙されている気分になる。私の渋い顔を見てとってか、子供は慌てたように席を立った。

「あ、あのね、サンタのお仕事って、すごく楽しいと思うよ!」

「へえ、そうかい」

「あわわ!」

 子供は目をぐるぐるさせ、私のそばに回りこむと服の袖を引っ張った。

「お友達を紹介するよ、来て!」



 外に引っ張りだされた私の不満顔を尻目に、子供は「見ててね」と自信満々にのけぞった。大きく開いた口のまわりを両手で囲い、雲の彼方に向かって叫ぶ。

「おーい、トナトナ、カイカイ!」

 トナカイが来るな。

 単純な名づけに呆れつつ、トナトナ、カイカイとやらを待つことしばし。はるか彼方から、なにかが疾駆してくるのが見えた。

 ひねりもなにもない、案の定やってきたのは二頭のトナカイであった。

「紹介するね。おじいさんのパートナーになる、トナトナと、カイカイだよ」

 トナカイはのっそりとした動作で頭をもたげ、私の顔を見やった。

「かわいいでしょう?」

 可愛いとは到底思えない間抜け面のトナカイの頭をなでながら、子供は頬を桃色に染めて、こちらに笑いかけてくる。

 ──にこ。

 ……ハッ、いかん。つられて笑ってしまった! なんてことだ。もう五年もちゃんと笑っていないことが、私のささやかな自慢であったというのに!

「ふ、ふええ……っ」

 子供が泣きそうな顔をしてあとずさる。五年ぶりの笑顔はかなり引きつっていた上に、そのあとの悔しさで歪んだ私の顔は相当恐ろしいものだったようだ。

 失敬な。

 と、トナカイのうちに一頭が、おもむろに私の方へと近づいてきた。そして耳をぴくぴくと震わせながら、クイッと顔を持ち上げ……、


『よお、じいさんよう。早いとこ準備にとりかからなきゃ、あっという間に配達の時間になっちまうぜ。いろいろ仕事がたまってるってのによぉ、サンタの野郎の急病のせいで、まったく手つかずなんだ』

『そうよ、サンタに残業は許されないのよ』


「あ、おじいさん。言い忘れてたけど、この子たち、しゃべれるんだ」

 慣れとは恐ろしいと思う。トナカイがしゃべっているのを見ても、「オスとメスか」とか「しかし口が悪い」とかしか思わなかった自分が怖かった。

「ね! サンタさんって楽しそうでしょ!」

 子供が私を見上げる。必死の目である。だが生憎、どこをどう見たら楽しそうなのかさっぱり分からない。

『おう、こんなに一生懸命頼んでんだ。引き受けてやれよ。かわいそうだろ』

 トナトナが鼻をフンっと鳴らして言う。カイカイもまた、コクコクと頷いた。

『ね、あなたもサンタさんにプレゼント、もらったことあるでしょ?』

 その問いに、私は不覚にも答えに詰まってしまった。

 子供のころに憧れていたサンタクロース。もらったプレゼントはなんだったろう。自分のことは覚えていないが、息子がまだ幼かったころ――私の心がまだ穏やかであったころのクリスマスには、たしか『海底二万マイル』という本をあげたのだった。息子は、サンタさんの贈り物だ、とたいそう喜んでくれた。

 ……別に、引き受けてやってもいいかもしれない。頑固じじいの私としては「馬鹿げた夢物語なんぞに付き合ってたまるか」という正体不明の意地を感じないでもなかったが、死んでいまさらそれを貫くのも愚かな気がした。

 それに――。

「だめかなぁ?」

 子供は小さな手を胸の前で組み、今にも泣きだしそうな表情で私を見上げた。

 ……やれやれ。まったく本当に。この子供を前にしていると、頑固を貫き通すのが馬鹿らしく思えてくる。

 うむ。

 いやしかし。

 サンタクロースの代行とはいくらなんでも。

 と、往生際悪くうだうだ考えていたそのときである。



『うなずかねぇと、一生、あの世に連れていかねぇぜ』



 なに!?



 私は目を剥いて、トナトナを睨みつけた。が、雄トナカイは素知らぬ顔で口笛を吹いた。トナカイのくせに口笛なんぞ吹きよって、生意気な! 骨格的に無理があるだろう! どこから出してるその音!

「わかった! わかったやればいいのだろうが!」

『あら 物分かりいいのね。見た目にそぐわず』

『そぉか? 見た目のまんまだぜ、愚かそうなとこが』

 腹の立つトナカイコンビの横で、子供は顔を輝かせ、手を振りあげて喜んだ。

「やった! やったあ!」

 よっぽど嬉しかったのか、そのまま雲の上を駆けずりまわる子供。

 可愛いものだ。

 ──可愛いものだ、だと!? な、なな、なにを考えているのだ、私ともあろう者が! ぐおっ、自分に対して鳥肌が!

 などと苦悩していると、トナトナがとことこ蹄を前後させてやってきた。

『よう、じいさん。今さらだけどよぉ、サンタクロースの仕事ってけっこう大変だぜ。いいのかい?』

 いいのかい、だと!?

 歯をギリギリギリギリ軋ませて、私は忌々しげにトナトナを睨みつけた。

 だが一度やると口にしたことを撤回するのは私の誇りが許さなかった。私は余裕があるように見せかけて、口端を持ちあげた。

「ふん、かまわんさ。サンタクロースもたまには休ませてやろうではないか」

『ほー、お優しいねぇ。ま、よろしくな。新サンタクロース』



 この後、私は軽々しくサンタ代行業務を引き受けてしまったことを後悔することになる。



『こんの、あほサンタめ!』

「う、うるさい! こっちだって必死にやっている!」

『愚痴はいらねぇ! 態度で示せぇ!』

「貴様、仮にもサンタクロースに向かって、なんたる口の利き方だ!」

『けっ。ただの日雇いサンタに敬語なんて使ってたまるか! おい、トムスンさんとこの嬢ちゃんはくまのぬいぐるみだぞ。なんでラジコンなんて包んでんだよ! アホかおまえ、アホだろ!』

「ええい、やかましいー!!」

 地獄であった。トナトナの指導のもと、さっそく仕事に取りかかった私だったが、その仕事の大変なことといったら筆舌に尽くしがたい!

 サンタクロースの仕事は『奇跡』の配付が基本なのだという。

 たとえば、プレゼントが枕元に置かれている奇跡。ただしこれは、たいていの場合、親や親類が代わりにやってくれるのだという。は。誰もが知らぬうちに、サンタの手伝いをしていたわけだ。滑稽な!

 ほかには、願いごとが叶う奇跡や、ちょっとしたよいことが起きる奇跡があるのだという。

 まずとりかかった仕事は、誰がどんな奇跡を待ち望んでいるのかを調べ、書類にまとめることだった。それが終わると今度は休む間もなく、プレゼントの準備。今がその段階だが、次にはサンタクロースのもっとも重要な仕事、『奇跡の配布』が待っているという。例の、ふざけた不法浸入行為である。

 しかし疲れる。こうも疲れてくると、鳴りをひそめていた私の矜持が息を吹きかえしそうになるのも仕方のないことと言えよう。

 なぜ。いったいどうしてこの私が。

 真っ赤も真っ赤っ赤な他人のために、こんなことをしなくてはならないのだ!

「すこし、休も!」

 さいわいなことに子供が声をかけてくれたので、私たちは一休みすることとなった。ああ、腰が痛い!



「まったく、これじゃサンタも風邪ぐらいひきたくなるわい」

 私は肩をもみながら文句を垂れた。胸中でとぐろを巻く不満の数々が、愚痴となって飛びでてこないのは、傍らで子供が嬉しそうに笑っていて気が抜けるからだ。

「疲れた?」

「疲れたどころじゃない。一生の労力を使いきった感じだ」

『いやだわ、サンタさん。あなた、もう一生なんて終わったじゃない』

 なんて嫌なトナカイなんだ!

「ところで、今あっち……下界は何時ごろなのかね?」

 雲の上はずっと朝のように晴れているため、時間の感覚がくるって仕方ない。

「十時だよ」

 子供はあっけらかんとして言う。一方の私はたいそう驚いた。

「もう、そんな時間なのか!?」

 背後から嫌な空気が流れてくるのを感じて、おそるおそる振りかえる。

 案の定、トナトナがこちらをニヤニヤ笑って見ていた。

『さーて、そろそろ、お仕事再開しますか、サ・ン・タ・さ・ま』

 おお、神は私を見放したもうたか。……いや、待て。諸悪の根源はその神ではないか。きっと今ごろ、私のぶざまな奮闘ぶりを見て、天上で笑い悶えているにちがいない。くっ、もう二度と神が慈愛深い存在だなどという思い違いはすまい。

 しかし、救いの手とはあるものだ。

「もう少しダメ? 僕、もう少しだけ、おじいさんとお話ししてたいな」

 子供が懇願の眼差しでトナトナを見上げる。トナトナは『うっ』とうめき、困ったように目を泳がせてから、ふんっと顎を反らした。

『少しだけだからな!』

 助かった。トナトナもこの子供には弱いようだ。トナトナはカイカイを連れて、いじけたように仕事場に戻っていった。

 子供が身を乗りだして笑った。

「あのね、おじいさんってね、サンタさんに似てるんだ」

「そうなのか?」

「うん! フサフサのおひげとか、きれいなおめめとか」

 私はその言葉に目を丸くした。

 綺麗? 私の目が? そんなことを言われたのははじめてのことだった。いや、少なくともここ数年、言われた記憶はない。

 私の目が、綺麗? 本当に?

 私は『クリスマス・キャロル』に出てくるスクルージのような、心の汚れたつまらない老人だ。まさか綺麗などと言われるとは、夢にも思わなかった。

「……ありが……」

 私は礼を言いかけて、あわてて咳払いをする。

 いかん。危うく喜んでしまいそうになった。

 妙だな。この私が「喜ぶ」だって?

「そういえば、君の名前を聞いていなかった。名前はなんと言うんだ?」

 私は迂闊にも子供の名前を聞いていなかったことを思い出し、そう尋ねた。子供は小さな鼻を自分で指さし、きょとんとしてから答えた。

「サンタさんは僕を、雪のようだから、スノー・チャイルドって呼ぶよ」

「なるほど、雪の子供か。ふむ、いい名だ」

「うん! 略して、スーちゃん!」

「……なるほど、いい名だ」

 トナトナといい、カイカイといい、略してスーといい。本当に大したセンスである。私はインフルエンザになったというサンタクロースに改めて呆れた。

 突然、背後から怒鳴り声が聞こえてきた。

『おい、もういいだろ! さっさとしやがれ、のろまじじい!』

『あ、サンタさん、来るとき、クッキーひとつ持ってきて下さる?』

 ……どうにかならんのか、あの腹の立つトナカイどもは!



「終わった……」

 二十四日の夜の十一時半をまわったところで、すべての仕事が完了した。

 ああ、やっと休める! 私はごろりと床に横になった。

 ──が。

『休んでる暇はないわよ、サンタさん』

 ゴツン!

「……ぐっ」

 カイカイが私の頭に蹴りを入れてきた。

「おい。もう我慢の限界だぞ。すこしは老人を労わろうと思わんのか!」

『急いで着替えてちょうだい。時間がないんだから』

 聞いているのか、聞いていないのか(いや、聞いていない)、カイカイは焦ったように蹄を踏みならした。そのたびに床板に亀裂が走る。これは怖い。

 ──ん? 着替える?

 私はいったん聞き流したカイカイの言葉を反芻し、まさかと青ざめた。

「着替えるって……」

『まさかそのよれよれシャツと、よぼよぼズボンで、希望のサンタを演じる気?』

 き、希望のサンタ。この私が。ああ、もはや言葉もない。

『スーちゃん、あった?』

 なにやら棚をあさっているスーに、カイカイは声をかける。スーは大きな赤い袋を抱え、こちらに走り寄ってきた。

「あったよ」

『さ、これに着替えてちょうだいね』

 スーから袋を受け取り、中身を取りだす。予想はしていたが、それを裏切らずに中身はサンタクロース定番の赤と白の衣装セット帽子付き、であった。

 これを着るのか? 本当に? 今さらだがサンタクロースはやはり私に向いていないと思うのだ。しかしもはや逆らう気力もなく、のそのそとそれを着てみると、ふむ、どうしてどうしてなかなかの着心地である。

「わあ! よく似合ってる!」

『本当ねえ。素敵よ、サンタさん』

 ひとりと一頭の称賛を受け、自らも鏡を覗きこむ。

 なるほど、おぞましいほど似合っている。この服、商品化したら評判を呼ぶかもしれん。世の中にはびこるあらゆる悪人も、この滑稽な服を着れば善人に見える、私のようにな。そうだ、たとえば囚人服をこれにしたらどうだろうか──わはは、そりゃいい。

『さ、外でトナトナが準備を終えて待っているわ。今日は、がんばりましょうね』

 ひとり乾いた笑いを浮かべていた私を、カイカイがふたたび急かした。



『準備はいいかしら?』

 橇と手綱でつながれたカイカイが、私とスーがプレゼントを満載した橇に乗ったのを確認してから声をかけてきた。私は不安と疑惑を胸に。スーはわくわくとして。それぞれの思いを抱いてうなずく。

『んじゃ、いくぜぇ! しっかり掴まってろよ!』

 トナトナは陽気に叫ぶと、大きく首をのけぞらせた。

 そして後ろ足を蹴りあげて、雲の大地を駆けだした。

 橇は徐々に速度を増し、快調に雲の上を滑っていく。


『Merry Xmas!』


 その言葉と同時に橇が宙に浮き、一気に空の高見へ飛んでいった。

 あっと言う間に小屋ははるか眼下まで遠ざかり、私は怖さ半分、楽しさ半分という、自分でもよく分からない心持ちになった。

「な、なかなか楽しいな……」

 辛うじて言うと、突然、橇がピタリと止まった。

「な、なんだ!?」

 私の慌てた声に、トナトナがにやりと笑って振りかえった。

「─────っっ」

 直後、私は声にならない悲鳴を上げた。

 橇は真っ逆さまに落下すると、急激に近づいてきた雲の大地へと突っこんでいった。



 覚悟していた衝撃はいつまでも来なかった。私はおそるおそる、きつく閉じていた目を開ける。

 そして一瞬、ほうけてしまった。

『どうだった? サンタ殿。楽しかったろう』

 トナトナがからかうような口調で言う。なにか反論しようとしたが、体が固まってしまい、声すら出ない。

「大丈夫?」

 隣を見ると、スーが心配そうに私の顔を覗きこんでいた。

 ……大丈夫じゃないわい。

『なっさけねえよなあ、これしきのことで』

 トナトナはなおも笑いつづける。本当に失礼な奴だ。仕方ないではないか。そっちはもう何年もこれを繰りかえしているのだろうが、こっちはなにもかもが初めての経験なのだ。と思いつつも、声に出せない自分が情けなかった。

 突然、カイカイがクスクスと笑いだした。

『気にしないでちょうだいね、サンタさん。トナトナったら、久々のお仕事ではしゃいでるの。憎まれ口もご愛嬌』

 ほほう。もしやさっきの態度も、私を笑っているのでなく、嬉しさのあまり笑っていたのだろうか。そう考えると、トナトナもなかなか可愛いではないか。

『なあに言ってんだよ! 仕方ねえだろ? こんなアホサンタと一緒じゃ、憎まれ口でも叩いてねえとやってらんねえぜ! 愛嬌もクソもないっつうの』

 前言撤回だ。可愛さの欠片もない。

「あ、見て見て! 街だよ!」

 不意に腕を引かれて振りかえると、スーが橇から身を乗り出して、はるか下方を見下ろしていた。私もやはり怖さ半分、興味半分で地上を見下ろす。

 そして、思わず息を飲んだ。

「これは……」

 そこには、美しい光景が広がっていた。

 雪の降る深い闇のなか、街の灯火が幾重にも重なって、光の渦をつくっている。

 知らなかった。

 私たち人間は、こんなに美しいところに住んでいるのか。

「あれは、クールバイルの街だよ」

 おっと。そうだ、仕事をするのだった。スーが書類を引っ張りだしたので、私も横からそれを覗きこむ。あそこから行くのだろうか。行くのだろうな。私はこのまま空中散歩がいいがな。はは。

「あの街からかね?」

「どうする?」

 逆に聞きかえされてしまった。

 困った顔をしていると、スーが愛らしい笑みを浮かべた。

「サンタクロースはおじいさんだから、なんでも自由に決めていいんだよ」

 ああ、そ、そうか、なるほど。

 私はやけに緊張しながら、よし、とうなずいた。

「では、あそこから行こう」

『やっと決まったか! ようし、それゆけ、橇よー!』

 橇はゆっくりと下降をはじめた。

「サンタさん、サンタさん」

「ん?」

 ちょんちょんと肩を叩かれて振りかえると、スーが両手を振りあげた。その手には鈴がいくつもついた輪っかが握られていた。

「ああ、それはもしや」

「えへへ!」

 スーは両手をぶんぶん振った。


 ──しゃんっ、しゃんっ、しゃんっ、しゃんっ。


 心地良い鈴の音が、夜空に響きわたる。

 橇は走った軌跡に星屑を残しながら、鈴は希望の訪れを予感させながら。



 いざ、クールバイルへ!

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