なぜ、セバスチャンは去ってしまったのか?

 ペンネーム、ユリアが書いた、執事小説。

 サブカルチャーでよく見かける執事が登場するアニメ、漫画、ゲームをしているうちに、好きになった。

 執事のことをネットで調べたら、十九世紀のイギリス、ヴィクトリア朝が本場らしいと知る。

 ユリアはロンドンを舞台にした執事と令嬢のロマンスを書きたくなった。だからいろんな小説を読んで、理想の執事が登場する作品にしたかったのだが。


ユリア「せっかくあたしががんばって書いたのに、何がいけなかったの?」


???「よろしければ、僕がお教えしましょう」


ユリア「あんただれ?」


???「十九世紀のロンドンで作家をしている者です。実在した人物ではありませんけど、少しはお役に立てるかもしれません」


ユリア「どうしてあたしに?」


???「メタフィクション的になってしまいますが、同じ作者が書いた作品だからです。その助っ人として呼ばれました。アレックス・ランバートと申します」


ユリア「へえ、そう。だけど小説なんだから、正しい、正しくないなんて重要なの? フィクションなんだから、何でもありじゃないの?」


アレックス「ありありです! ファンタジーなら架空の世界なので少しぐらい史実とちがっていても、ありだと思います。だけどですね、ユリアさんは舞台を『十九世紀のロンドン』にしました。そうすると、実在した世界のお話になりますから、基本的な知識を入れて書かないと、設定がおかしいことになってしまいます」


ユリア「あたし、ちゃんと小説を読んで調べたのよ」


アレックス「その参考書籍もフィクションです。いくらロンドンが舞台だとしても、書き手が知らなかっただけかもしれませんし、面白くするために設定を変えているかもしれません。だから、できれば資料用の専門書を読みましょう。ある程度の知識があれば、当時の情景がリアルによみがえります。それが歴史小説の醍醐味でもあります」


ユリア「専門書って高いのでしょ? それに難しくない?」


アレックス「ヴィクトリア朝を舞台にした作品は、日本でもファンがたくさんいるジャンルですから、安価な初心者向けの専門書がたくさんありますよ」


ユリア「タイトルを教えて!」


アレックス「その前に、ユリアさんが書いた執事小説。どこがまちがっていたのかを、僕がお教えしましょう」

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