④ 新たな一歩

 意外だ、、、。西尾の家が、こんなに豪華だったなんて。西尾の家っていうと、一戸建てのフツーな建売住宅か、マンションをイメージしていた。それが、強いていうなら「百年住宅」みたいな造りで、どーんと三階建て。庭はだだっ広くて、りんごの木まである。ついでに駐車場には、ベンツが二台。あ、これじゃあコピペだ。にしても、超お金持ちじゃないか。

でも、ここで入らないわけにはいかない。だいじな作戦会議が、待っているんだもの。

「ピンポーン」

意を決してインターホンを押すと、西尾がぽてぽて出てきた。

「入って入ってー」

西尾が、わたしを招き入れる。玄関げんかんひろっ。

西尾の後に続いて、螺旋らせん階段をのぼると、ドアに<聖悟KUNのへや>とかいてあるプレートが下がっている部屋が、目についた。

「あれ、あんたの部屋?」

そうだよ、と言いながら西尾が<聖悟KUNのへや>なる部屋のドアを開ける。

その瞬間、動物園のようなにおいが、廊下に充満じゅうまんした。くさっ。すかさず、わたしは鼻をつまむ。

「ゥワン!ワン!ワン!!」

部屋から、茶色いもふもふしたものが、駆け抜けて往く。まさか・・・。視線を下に向けると、わたしの足元でトイプードルが二匹走り回っていた。

「きゃーーー!!!犬無理!犬無理っ!助けてー!」

悲鳴を上げるわたし。

「えー!あんた犬ダメだったのか。こりゃ失敗」

てん、と自分の頭をたたく西尾。そんなこと言ってないで、早く助けろばかちんがぁー!!

「へいへい。じゃ、全速力で部屋に逃げ込んで。そしたら、ワンコも追いかけてくるから、ワンコが部屋に入る直前で俺がドアを閉める。世界記録並みのスピードで走るんだぞ。いいな」

わたしは、ガクガクうなずく。

「3・2・1はいっ!」

ヒュン。わたしは、極限にまで足をのばして犬達を振り切った。バタン!!勢いよくドアが閉まる。部屋の中を見回しても、犬はどこにもいなかった。良かった~。息をついて、部屋をもう一度見渡す。


           「って、なんじゃこりゃ~!」


部屋の中には、ありとあらゆる生き物が鎮座ちんざしていた。ヘビ・金魚・ダンゴムシ・ミーアキャット・カメ・カブトムシ・蝶々・ネコなどなど。

「わたし、猫も無理・・・」

床に手をつき、うなだれる。

「あーもー。あんた、動物恐怖症かよ」

・・・。見かねた西尾が、なぐさめてくれる。

「あっ、ほらチョウチョもいるぞ。カワイイだろー」

あ、かわいい。それにしても、西尾の部屋は動物園みたいだね。これじゃあ、友達呼べないじゃない。こんなことなら、わたしの家で作戦会議したほうが良かったわ。

「俺は、動物を愛してまない男なんだ」

情熱大陸みたいに、言わないで下さい。

「ま、でもまずは、やるべきことやるか。・・・よし、作戦会議だ」



わたしと西尾は、ヒョウがらのテーブルに向かいあって座った。テーブルの上には、紙が一枚。例の、「不思議発掘たんけんたい!」の紙だ。くるくる部屋を見渡して、落ち着きが無いわたしより先に西尾が、口を開いた。

「あんたはどう思う?奏絵かなえ

「ふあれっ!?」

西尾が、急にわたしを名前で呼んだせいで、ヘンな声が出た。

「な、何がっ」

「あんたは、テレビに出たいか?」

この質問は、テレビで超能力のことをバラすという前提だよね。だったら、絶対出ない。何がなんでも出ない!超能力のこと言っちゃったら、すごいみんなから非難されると思うし、いじめだってされるかも知れない。ましてや、友達がいなくなることだって、考えられなくない。わたしには、それがすごく悲しい。

「やっぱりそうか。何回訊いても同じこと。あんたは、成長しようとは思わないのか」

西尾は、怒っている。何も、現状を変えたがらないわたしに対して。でも、西尾はわたしの気持ちは分からないから。わたしではないから。この気持ち、分からないんだ。

「俺には、分かるよ。その気持ち」

ずっと、後ろの水槽の中にいる金魚を、見ていた。でも、西尾の言葉でわたしは振り向いた。

「分かるの・・・?」

不思議だった。真剣な、西尾の瞳に吸い込まれそうになって、あわてて目をらした。全てが分かっている、とでもいう様な瞳に。


「俺たち超能力者は、見えない糸でつながれている」

西尾は、水槽の中でふわふわ泳いでいる金魚に目をやった。

「自由になりたいと思っても、超能力という糸ではばまれる。

そのせいで、新たな一歩を踏み出せない、隠れた超能力者がたくさんいるんだ。だけど、ちゃんと一歩を踏み出している超能力者だって、いっぱいいる。

それが、テレビに出ている超能力者だったりする。

ちゃんと、踏ん切り付けて何かしないと、知らないうちに、糸に絡めとられて、動けなくなる。

俺を、だれだと思ってる。俺も、超能力者だ。

あんたは、踏み出せるか、その一歩」

気がついたら、うなずいていた。西尾の話に、知らぬ間に納得していたのかもしれないが、たぶん、西尾の真剣さにわたしは動かされたのだと思う。西尾が、わたしを変えようと、救おうと、してくれていることがわたしには分かった。いじめがどーの、友達がどーの、は後で考えよう。必ず、なんとかなる。

わたしは、そう思ってもう一度、大きくうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る