② もう、戻れない。

「あんたは、テストをある意味ではカンニングしてるだろ」そう、西尾に言われて鳥肌が立った。何で。「何でそう思うの、、」気がついたら、質問していた。もう、認めてもいいのに。「何でだって?それは俺には、超能力があるからね。何だって分かるよ」超能力。そんなのは、認めない。あるはずが無いのだから。「そう言うと思ったよ。でも、本当にそうなんだ。君だってそうだろ?」私は、自分の顔が引きるのを感じた。西尾は、それをめざとく見つけてほくそ笑んだ。「そろそろ、正直にいっても良いんじゃないか?胸のつかえがとれるよ」もう、ここで虚勢を張っても意味が無い。西尾には、私のした事・している事が全部分かっている。でも、その事を言ったら、私の13歳1ヶ月の人生が全て音を立てて崩れる気がする。「あんたは諦めが悪いな。だったら、俺から先に話そう」話すって?そう訊こうとしたけれど、西尾はもう話し始めていた。

 「俺は、あんたと同じように、超能力を持ってる。でも、超能力自体が一緒と云うわけじゃない。俺の超能力は、他人の眼を見ると、その人がした悪い事が全部分かるってことだ。そりゃあ、人間だから悪い事はいくらでもすると思う。でも、あんたのは違う。普通のと、違うんだ。あんたは、超能力を使って、テストをカンニングしてるんだ。だからあんなに成績がいい。まあ、見た所、悪意は無さそうだったから良かったけど。それに、テストのときだけ普通のと違うオーラ?みたいのになるからさ。って、こんなもんかな。じゃあ、次あんたが言うんだからな」じゃあって、、。でも、私と同じ様な人がいるのにはびっくりした。あと、西尾には訊きたい事がある。「その前に、西尾。訊きたい事があるんだけど」「ん?なに」「西尾、何で委員長に私にここに来るように伝えたの」もしかして、委員長が好きだから。とか言うんじゃないだろうな。委員長は、結構モテる。「いや、あの人だったら頼みやすそうだと思ったからな」何で!?あの冷淡な委員長が!西尾の感性は、よく分からない。「ほら、そんな事いいから早く言えよ」はいはい。分かりましたよ。言えばいいんでしょ、言えば。

 私が、自分の超能力に気づいたのは、小学2年生の頃。あの頃は、5×3や7×4とかをやっていた。すごい、簡単。で、九九のテストがあった。あのテストからだった。ある現象が起きはじめるのは。テスト中、私はずっとめまいがあった。あの時、九九はまだ五の段までしか覚えていなかった。けれど、何の迷いもなしに、スラスラと解けたのだ。でも、それを偶然とかたずけるには、続きが在りすぎた。結局はその現象が今でも続いているのだが、小学5年生あたりから、この現象は超能力ではないかと疑い始めた。テレビでも、その様なことが起きた人の事を取り上げていたのだ。本当に一週間休んでも、スラスラ解けるのだ。(もちろん、通信教育は取っていない)だから、しまいには罪悪感や恐怖まで覚えてしまう。

 と、こんなところか。「ふうん、あんたも大変だねえ」西尾が、気楽に言う。「もう!本当に大変なんだからね」私は西尾を叱った、、、つもり。私は元々、人を叱るのは得意じゃない。「でも、その秘密を言って、すっきりしただろ?」西尾が自慢気に言う。でも、これは西尾のお陰かも。「ありがと、、」「じゃあ、これからは超能力者同士協力していこうな」西尾が、柄にもなくカッコイイ台詞を言う。「うん、そうだね」って、あれ?私、もとはと言えば西尾が告白を私にするから、ここに来たのであって、、、。え?「何言ってんだ、あんた。俺があんたに告白なんかするわけないだろ。俺は、話がしたいって言っただけだ」ええええええ!!ということは、全部私の勘違い、、?「そういう事になるな」と、西尾。はあ。なんか損した気分。

「ねえってば!カナエ、聖悟君の返事はどうなったの?」ゆきっちがだだをこねる。「だから、返事はしてないって言ってるでしょ?」この、ゆきっちと私の口論は朝、通学中いきなり始まった。事の発端は、ゆきっちが「昨日の聖悟君の件、どうなった?」と聞いたところからだ。私の、最大の秘密を西尾に話したなんていったら、ややこしい事になるので西尾が、私に告白したと云うストーリーにしたのだ。だが、意外にゆきっちがしつこくて、根掘り葉掘り訊いてくる。で、もう返事をしていないと云う事にしたのだが、、。「そんなワケ無いでしょ!在ろう事か、あのカナエが。カナエは、人の頼みを断る事が出来ないって私知ってるんだからね!」と、ゆきっちが粘るのである。ちなみに、今日はニッカは休みだ。今回の場合は、ニッカが居なくて良かったと絶対に言いきれる。ゆきっち1人でもあの粘りだから、ニッカが居たらますますヒートアップしていく。ニッカには申し訳無いが、この場に居なくて良かった。「あっ!」ゆきっちが、思い出した様に声をあげた。「今日、私日直だったんだ!」ああ、良かった。訊かれずに済む。「ごめん、カナエ。先行ってる!」私は、ダッシュするゆきっちを笑顔で見送る。

教室はがらんとしていた。時刻は午前7時30分。早く来すぎた。教室に居るのは、私と委員長だけ。これでは、会話が成り立たない。珍しい事もあるものだ。委員長が私に近づいてきた。「昨日の件、どうなった?」単刀直入、そう言われた。「えっと、西尾の件?」委員長がこくんと頷く。「告白されたか?」ああ、委員長もそっちの話だと思っているのか。「うん、されたけど返事はしなかった」何て事ない顔で、嘘をつく。「タイプじゃないのか」「あっうん、そんな感じ」一応、これは嘘ではない。「チャンスは、逃すなよ」委員長が、警告してくれる。だが、生憎私には好きな人が居ないのだ。「じゃ」と言って、委員長が私から離れていく。そして、「おはよっす!」静かな教室に、元気過ぎる声が響く。西尾だ。「あれ?あっ!委員長、よっ!」何故、私には挨拶しない。超能力者同士協力していくんじゃなかったのか。「ごめん、ごめん。そうだ、あんたにちょっと話がある」何だか、嫌な予感がする。西尾が、廊下を指差す。教室でいいじゃないか。委員長しか居ないんだし。「絶対に聞かれちゃダメなんだ」「委員長にも?」「ああ」廊下に行くと、西尾が深刻そうな表情をして立っていた。「実は、、今日テストがある」西尾が言う。「、、それが委員長にすら聞かれてはいけない話?」「そうだけど、、」西尾、困惑。「言っとくけど私、西尾が思ってる程悩んで無いから」「えー、じゃあテストがあっても問題無いわけ?」「いや、一応問題だけどそこまで問題じゃないから」すると、西尾が口を尖らす。「なんだよ、折角言ってやったのに損した」ぶーぶー言いながら去って行く。あ、訊くのを忘れるところだった。「西尾、自己紹介のとき、将来の夢は詐欺師です。って言ったの、冗談?」西尾が振り向き様に言った。「なんだ、そんなの嘘に決まってるだろ」私は、西尾を要注意人物に設定した。転校初日の、ましてや公の場で冗談を言う奴なんて、要注意人物に決まっている。あまり、関わらないようにしよう。

 「まだ、秋と言える季節ですが、インフルエンザが流行っています」はやっ、インフル流行るのはやっ。クラス中がつっこむ。「このクラスでも、インフルエンザの人が既に一人います。友希さんです」ゆきっちなのね!ゆきっち、お大事に。「他のクラスでも、一人インフルエンザで欠席の人がいます」「せんせー、その休んでる人誰ですか」西尾が質問する。「、、繭夏さんです」ニッカなのね!ニッカ、お大事に。それにしても、今日の私の友達欠席率、高く無いか?「はい、皆さんインフルエンザには気をつけてください。それでは、適当に誰かとペアを組んでください。点呼をします」ゆきっち~って、ゆきっちは休みなんだ。悩んだ挙げ句、委員長とペアを組もうとしたが、委員長はちゃっかり西尾とペアを組んでいた。教室を見渡すと、私以外の全員がペアを組んでいる。誰も組む人が居ない、、。これほど悲しいことは無い。またしても、教室をぐるりと見渡す。すると、西尾と委員長ペアが私に向かって手招きしているのが視界に入った。私を、入れてくれると云うことだろうか。「ありがとー!」委員長の手を握り、ぶんぶん振る。私は、この事を一生忘れないぞ。委員長、苦笑い。西尾が、しらっとした目で見ていた。私は、あんたの手なんて握らないからな。

 「おい、超能力者同士協力していくんじゃ無かったのかよ」「いや!だからって、西尾の手を握らない理由にはならない」夕陽が沈む、秋の空。澄んだ空気。濁っているのは、私たちだけか?私は、只今西尾と口論中。放課後に学校の裏庭に私が呼び出されたのは、どうやら委員長との差別をしすぎだ。ということらしく。「男女差別って、しってるか。近頃は、酷いらしいな」「私は別に、差別をしたわけじゃ無いんだけど。それとも何か、私に手を握ってほしいの?」「絶対嫌だ」「じゃあ何?問題でも?」「要するに、俺に一言ありがとうとか言ってもいいんじゃないかってことだ!」ぎゃー、ぎゃー。あぁもう本当、呼び出し応じなきゃ良かった。でも、私は頼み事は断れ無いタチ。無理な事なのかも。「話は変わるけど」「ふぇっ?」いけない。いきなり話題を変えられて、変な声が出てしまった。「あんた、カンニングしてる事、クラスの皆に言わなくていいのかよ」クラスの皆に?「ダメでしよ、それ!私、皆からひどいブーイング浴びせられる」「1人で、抱え込みたくないだろ」うっ。「言ったら、罪悪感も苦しみもひっくるめて、すっきりすると思うぞ」うっ。「いい。私、言わない。皆に言わない方がいいと思う」「そうか。あんたがそう言うならいいけど、もう、戻れないぞ」「分かってる」「じゃあ、またな」西尾は、さっさと帰ってしまった。もう、戻れない。本当は、この言葉を言うために西尾は私を呼び出したのかもしれない。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る