第40話

〈東学〉

 あぁ。

 胸が熱い。

 予想外の展開は、人の本性を笑えるほどにさらけ出す。

 何で奏太は俺を怒ってくれるのか。

 止めてくれよ、泣いちまうじゃねぇか。

「……ありがとう」

 俺は涙を拭って、ただ奏太に感謝の言葉を伝える。

 簡単なことだったのだ。

 その人の本性を知れば、人間不信なんてすぐに消えてしまう。信じるとは不確定なものに対して行うものであって、全てを理解した者は信じる信じないなんて、まず、する必要すらないのだ。

 いつ裏切られるかが分からないから『人間』が怖い。

 だったら、いつ裏切られるかということまで分かっていればいいだけの話。

 奏太は拳で、俺に何かを語ろうとした。俺にはもう、それだけで充分だった。

 奏太がどんな思いを抱えて、どんな想いを抱いているのか。

 それはもう充分に、しっかりと俺に届いた。

「お、おい……大丈夫か?」

 勝手に自己完結をした俺に、奏太が戸惑いながらも心配そうに声をかける。

「うん、大丈夫」

 涙を見られたことが何だか今になって恥ずかしくなり、俺は涙を拭う振りをして目元を手で隠す。

 俺は結局『人間』が怖いのを理由に、『人間』を知ろうとしなかった。

 でも、それじゃ駄目なんだ。

 『人間』を理解しようとしなければ、『人間』を信じることなんて出来るわけがない。

 さぁ、前を向こう。

 『人間』と向き合うために。

「……あのさ、お願いがあるんだけど」

「何だ?」

「『退部はしない』って父親を説得するの、手伝ってくれないか?」

「! ……あぁ、勿論」

 奏太が、面白い、と口の端を吊り上げる。

 気がつけば俺もつられて、口角が上がっているように感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る