第35話

〈東学〉

 テストは一人で受けることとなった。まぁ、約一週間も学校に通わないというのは出席停止にでもなる以外には中々ないのだから、それも当然か。現在は春、インフルエンザなど、とうに感染のピークは過ぎている。よって、まだテストを終えていない生徒は俺だけとなったわけだ。

 ……自分一人のため、他生徒の雑音は聞こえないはずなのに、何故だか落ち着かない。テストを受ける独特の緊張感なども、全て俺一人で作らなくてはならないからか。他者の息遣いが聞こえた方が、それを刺激として自らを奮起させられるのかもしれない。

 さて、作戦の開始だ。

 一つ一つの配点は小さいが、その分問題数も多く、また正答率も高い『知識・理解』の分野で大まかな点数を調整していく。各教科の点数をそれぞれベストの出来から二、三点落としていくだけで、総合得点は大きく下がるのだ。

 だが、『応用』の分野などでは気を引き締めて全力で取り組む。半端な気持ちで挑むとごっそりと点を持っていかれるためだ。問いをよく読み、理解して、頭の中と資料から断片的な情報を取り出し、それを論理的に繋げる。

 うむ、中々に調子が良い。出席停止期間が俺にプラスとして働いている。できる限りのミスをなくし、それでいて緩やかに点数を下げていく。相反する二つの動きが俺を混乱させようとするが、生憎ここにクラスメイトはいない。無理に緊張もしなければ、無理な脳の酷使も避けられる。

 これなら俺は、『人間』になれるはずだ。

 興奮が俺の中を駆け巡る。

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