第20話

〈東学〉


「よぉ、俺のこと覚えているか? 夢に出てくる二重人格さんだぜぇ~!」


……ん? あぁ思い出した。ちょっと聞いてくれよ、友達の友達が完璧主義者でさ、これまた面倒な性格してるらしいんだよ。どう思う?


「おっと。残念ながら俺とお前は同一人物だ。そういう無駄な嘘は止めて、とっとと愚痴でも何でも吐き出しちまいな。『俺はどうすればいいんだ』ってよ」


……? お前、前よりクッキリしてきてないか? 濃くなったっていうか、輪郭がハッキリしてきた。


「あぁ。そりゃあお前の精神状態の所為だな。お前に俺がより明確に正確に見えるということは、それだけお前が参っているということだ。また色々と一人で勝手に結論出して、そしてまた一人で悩んでるっぽいな、ったく」


……あぁ。とにかく、今日は改めて俺がどういう奴なのかを知った。


「そうだな、そしてお前は最低な奴だった」


で、それではこの先やっていけないんじゃないかと不安になった。


「違うな、それは後付けであって、お前の本心とはほど遠い」


……何知ったようなこと言ってんだよ、俺のくせに生意気。


「いやいや、自分に自分の心見透かされてふてくされるんじゃねぇよ。……んじゃここは一つ、夢の中で自慰でもしますかね」


……もう少し誤解を生まない表現にしないか? 時たま漢語表現は意味の使い分けが分かりにくい部分があるから止めろ。


「いいのいいの、どうせ俺とお前しかいないんだし。さぁさぁ悩める子羊よ」


だから何? とっとと休ませてくれよ。


「いいか、お前は今青春してんの。誰が何と言おうとお前がどう思おうとな。そうやっていちいちどうでもいいことに頭を悩ませるのも数ある青春の一つであって、別にお前だけが苦しんでいるわけじゃないんだぜ? そも、青春はそういう悩みが根幹であるわけなのだから、今のうちに悩めるだけ悩んどけってこと」


はいはい。で、俺はどうすればいい?


「お、やっとその台詞を言ってくれたな。いやぁ実はその言葉をずっと待ってたんだよ。ていうかそのために今日は話しかけたわけだからな。ほらほらもっと早めに言ってくれってんだ」


……何だよ、やけに上機嫌になったな。そんな生き生きとした顔初めて見たぞ、お前本当に俺か?


「じゃ、俺がお前に『どうすればいいのか』直々に教えてやろう。勉強をしろ」


あん?


「明日、テストだぜ?」





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