第11話

〈風見奏太〉


 見た感じ、誰かにストーキングされているのかは俺には分からない。


 誰かに尾行されているかもしれない、いや、今日はいないのかもしれない。


 疑心暗鬼とはよくいったものだ。これが先人の経験か。


 舞歌さんは俺の半歩前を揚々と鼻歌まじりに歩いている。その活発で大きな挙動により一歩一歩前へ進む度、可愛さを凝縮したような短髪からほのかな甘い香りを振りまく。


 あぁ、何度頭の中で映像化した光景か。まさか仮とはいえ、こんな経験が出来るなんて生きていて良かったと心からの感謝を神様に捧ぐ。……あ、俺仏教徒だった。


 舞歌さんによれば、もう借金返済の目処は立っているという。


 つまりそれは、俺と舞歌さんのウキウキ・キャッキャウフフ・ライフの早期終了を意味するということだ。


 だが、それでいい。別に俺は、これからも舞歌さんと仮の交際を続けようなどとは思っていない。これが早く終了することこそ、舞歌さんの幸せに繋がるのだから。


 ……。


 何だろう、この痛みは。




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