第50話 PPAP
パワーアップしたオタマの大水流の術は凄まじい術だった。…しかし、タケミナカタさんはさすがはひとかどの水神ともあり、
「ぐぬぬ…決めきれなかった…のじゃ…。」
「なかなかの術だったが…工夫が足りなかったな。例えば水流の中に土や小石を巻き込むと質量が増して破壊力が増すぞ。」
「おお!ナイスアドバイスなのじゃ!」
タケミナカタさんはまだ余裕を残しており、オタマに対して術のコーチまでしてしまっている始末だ。
「で、嬢ちゃん。まだ何か策はあるのかい?」
「うむ!今のアドバイスでおぬしをやっつける絵図が描けたのじゃ。」
「大した自信だ…試してみるかい?」
「小玉姫さん…本気ですか?あなたの水蛇の術だと威力がまるで足りませんし、海神の鉾は命中しませんね…。」
「案ずるな
オタマはそう言うと、先ほどより一回り以上大きい水蛇を生み出し、水蛇の頭を肩口に待機させ攻撃態勢を取り、
「さて、
堂々とした啖呵を切った。
「上等だ。嬢ちゃんが負けても恨みっこなしだぜ。」
「お互い様なのじゃ。では…ゆくぞ!」
オタマは声高らかに意味不明の言葉を叫んだ。
「あいはぶあぺん!」
激しい水の轟音を伴い、肩に待機させていた水蛇がタケミナカタさんに喰いかかる。
決着は、一瞬だった。
術を食らったタケミナカタさんは、仁王立ちになったまま、大声で笑いだした。
「はっはっは!こいつは…よく考えたもんだ!」
その手には、顔に向かって突き立てられようとしていた海神の鉾の柄が、しっかりと握られている。
「手を使った…つまり、この勝負、わらわの勝ち、なのじゃ!」
しかし、俺にはいまいち状況がわからない。
「えーと…これは一体どういうことでしょうか。」
「ああ、兄ちゃん。あの嬢ちゃん見事に工夫したもんだぜ。」
いいか、兄ちゃん
(゚д゚ )
(| y |)
水蛇の術と海神の鉾、それぞれ単体では一長一短の術だが
小五 ( ゚д゚) ロリ
\/| y |\/
二つ合わされば互いの短所を補った術となる
( ゚д゚) 悟り
(\/\/
「なるほど…つまり…どういうことだってばよ。」
「二つの術の連続発動…高等技術ですね…。」
「ああ。水蛇の術だと命中精度は高いが俺を傷つけるほどの威力はない。逆に、海神の鉾だと威力は高いが命中精度が低い。それで嬢ちゃんが考えたのがさっきの術…水蛇の術の中に海神の鉾を仕込んでいやがった。」
「さっきの水の中に土や小石を巻き込むというおぬしのアドバイスを聞いて、ペンとパイナップルを合体させるいかがわしいユーチューバーのおっさんの顔を思い出したのじゃ。名付けて…ペンパイナップルの術なのじゃ!」
「もう少しオブラートに包んだネーミングは無かったのだろうか。」
「大和、なんなのじゃその言いぐさは。おぬしはユーチューバーのおっさんに助けられたのじゃぞ。」
ううん…まあそういうことなら感謝しておこう。ありがとうユーチューバーの人。
「名づけはともかく、見事な術だったぜ。やったな嬢ちゃん。」
タケミナカタさんは身をかがめてオタマとハイタッチした。同時に、俺が閉じ込められていた檻の扉が開く。
「いいんですかタケミナカタさん。俺を逃がしてしまって。」
「約束事だからな。それに、俺も兄者も嬢ちゃんに負けてるから文句は言えないだろ。なあ兄者。」
タケミナカタさんが入り口の方に目をやると、いつの間にか、そこにはコトシロヌシさんをはじめ、クズハ、ツクヨミさん一行、今回の関係者のみなさんが立っていた。
「やれやれ、仕方ないなぁ。まあ、負けた以上は何も言えないね。」
「もーおじさんたちの役立たず!」
クズハは納得がいかないようでぶうたれている。
「小玉ちゃん、見事でしたよ。」
「よく頑張ったっす!感動したっす!」
イワナガヒメさんとククリヒメさんはオタマの健闘をたたえた。
「よし、早く帰ろう。母様に出会ってしまわないうちに今すぐ帰ろう。」
「月読様…そんなにあの似顔絵が衝撃だったんですね…。まあこれで俺も無罪放免ってことで…。」
ツクヨミさんとフツヌシさんは早く帰りたそうだ。
「さて…と。兄ちゃんを解放するとなると結婚式は中止だな。俺も諏訪に帰らせてもらうとするか。ついでだ、兄ちゃん嬢ちゃん、送ってくぜ。」
「もう行くのかい、武御名方。せっかくの一族との団らんの機会なのに。」
「なぁに兄者、クズハちゃんの次の結婚式にはまた戻ってくるさ。」
「じゃあすぐだね、叔父さん!」
いや、もうずっとしばらくは会えないんじゃないかな…。内心俺はそう思った。
────────────
「めっちゃ速いのじゃ!サラマンダーよりも速いのじゃ!」
俺たちは龍の姿に変化したタケミナカタさんの背に乗って帰路についた。オタマも龍に乗るのは初めてのようで、意味不明なことを叫びながらはしゃいでいる。
「神レベルが上がった、とは言ってもまだまだ子供にしか見えないな…。」
でも…
「助けに来てくれてありがとうな。オタマ。」
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