第49話 信じられた者は救われる
「ああ…やっぱりね。」
俺は壁に刺さった鉾を見てため息を吐いた。
しかし、オタマの方に突進していたタケミナカタさんは驚いて突っ込むのをやめ、数歩飛びのいて体勢を立て直した。
「くっ!何かの作戦か!?」
あまりの外れっぷりに、タケミナカタさんは何か罠の類かと警戒しているようだが、俺にはわかる。そんな作戦は、ないと。現に視線を移すと、冷や汗をだらだら流しながら硬直している術者の姿があった。その姿からはいかにも万策尽きました、という趣が感じられる。
「のう
「うん?」
「今の突進をもう一回やり直してもらえたら…うれしいのじゃけれど…。」
「…いや、今のちょっと危なかったからな…。それはちょっと。」
「…。ちょっとタンマなのじゃ。」
オタマは自分勝手なルールでタイムをかけ、後ろで見物していたオオカムヅミさんのもとにてててと駆け寄った。
「ちょっとヤバそうなので…
「えー…困りますね。」
ううん…「ちょっと」でいいのだろうか。傍から見ている俺的にはかなりヤバそうな気がするのだが。作戦も他人任せだし。
「うーん…武御名方さんはパワータイプですから、真正面から力勝負を挑んでも無駄ですね。術、それも高出力なものとか、トリッキーな術があればそれで攻めてみるのも手かもしれないですね。」
「あやつの弱点的なものは…。」
「武甕槌さんのような雷属性ですね。小玉姫さんは海の神系で雷の術は使えませんから参考情報ですね。」
「…詰んだのじゃ…。」
やっぱりダメっぽい。
「オタマ…俺のことは気にしないで帰ってもいいぞ。このままだと大怪我させられるかもしれん。」
「大和…いや、どんなにあやつと力量の差があっても、わらわはお主を助けるのじゃ。磐長姫ねーさまとも約束したのじゃ…だからそれだけは…譲れんのじゃ。」
「しかし…。」
「意富加牟豆美さん、術、なのじゃな。」
「何か良い作戦を思いついたのですか?」
「…。」
このオタマの顔は良い作戦を思いつかず捨て鉢になってとりあえず攻撃してみよう、そんなことを考えているに違いない。
「ゆくぞ。タケミナカタ。仕切り直しなのじゃ。」
「おう!いつでも来い!」
「生半可な術が効かないならこれならどうなのじゃ!…大水流の術!」
オタマは懐から以前に騒動を起こした
「その玉はなかなかの神器のようだが…いかんせん術者が未熟だ。その程度の水圧じゃあ水浴びをしているようなもんだ。」
「ぐぬぬ…この術もダメならもう打つ手が…。」
「もうやめろオタマ!タケミナカタさんにごめんなさいするんだ!命までは取られないはずだ。あっ、俺はすでに命を取られてるけど気にするな!」
「くどいのじゃ、大和。もしかして土壇場で起死回生の名案が閃いたかもしれないわらわを信用するのじゃ!」
オタマは歯を食いしばって何とか術の威力を上げようと、鼻息を荒くしながらうんうん唸っている。
「……。」
そんな表情をするまでに、頑張ってるのに、それを上回る攻撃なんて出せるものかよ。起死回生の名案なんて浮かぶものかよ。
だけど、そんなに必死になられたら、俺の腹も決まるってものだ。
「わかった、オタマ。俺はお前を信じる。」
「!?」
「なんだ…!?嬢ちゃんの術の出力が急激に…上がっただと?」
突然、オタマが鹽盈の玉から生み出す水の勢いが段違いに増した。せいぜい消防ホースの放水くらいだった勢いの水流が、テレビの災害情報で放送されているような激流にまでパワーアップしている。涼しい顔をしていたタケミナカタさんも流れに押されないよう、両足を踏ん張り激流にようやく耐えている。術を発動しているオタマも突然風呂場の蛇口が壊れてどうしたらいいのかわからないような、そんな顔をしているから自分でもよくわかっていないのだろう。
「こっ…これはいったいどういうことなのじゃ!?何やら…力があふれてくるのじゃ!」
ただ一人、にこにことした笑顔を浮かべているオオカムヅミさんが、オタマのその問いに答えた。
「おめでとうございます、小玉姫さん。あなたはたった今、神レベルが上がったのですね。」
「神レベルが!?」
「元のレベルが低ければ、一つレベルが上がっただけでも大きく能力が伸びますね。さらに、今、小玉姫さんは並々ならぬ神器を使っていますから、攻撃力も倍プッシュでマシマシですね!」
「確か…叔父上の話だと神レベルが上がるには五人の信者が必要だったはずなのじゃが…。ぱせり、マサル、ミカド、えーと…藪江…」
「今の堀さんで、五人達成、ですね!」
「…さっきの『信じる』はそういう意味じゃないんだけどな…まあいいか。」
「ふはは…この力…負ける気が…しないのじゃ!」
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