第48話 絶対に負けられない戦い
「先手必勝なのじゃ!」
オタマが得意の…というか数少ないレパートリーの水蛇の術を発動させる。
「フン!」
迎撃の体勢を取っていたタケミナカタさんは、襲い掛かる水蛇を叩き落そうとタイミングを計り手刀を振り下ろした。
「甘いのじゃ!」
オタマの掛け声に合わせ、水蛇がとぐろを巻くようにうねり、するりと手刀を躱しタケミナカタさんの脇腹付近に着弾した。
「ふはは!泣いて謝るなら今のうちなのじゃ…あれ?」
「痒いな。」
術を食らったはずのタケミナカタさんはまるでこたえていないようで、涼しい顔で術が着弾した位置をポリポリ掻いた。
「ファッ!?わらわの術がまるで効いていないのじゃ…。」
「
オタマは渋い顔をしている。
「この国は水系の神が多すぎな気がするのじゃ…。」
「待てオタマ。水神の力『も』ってことは…他の力もありそうだぞ。」
オオカムヅミさんが頷いた。
「はい、解説しますね。堀さんの言う通り武御名方さんは水の他に、風の
「なっ!?二つも属性を持ってるなんてズルいのじゃ!しかも風とか主人公属性っぽいのじゃ!」
「武御名方さんはどちらかと言うと風神としての信仰が厚いですね。武家社会の時代にこの国が騎馬民族の国に侵攻されそうになった時には身体中に風を集めて嵐を巻き起こしたりして船団を壊滅させたそうです。国内最強クラスの風神様として有名ですよ。」
「むぅ…わらわが家でゴロゴロしてた時代にそんなことを…。」
「懐かしいな。あの国には相撲文化があると聞いてちょっと熱くなっちまってなぁ…少しやりすぎた。」
「水の属性を持っているから雷神の武甕槌さんには相性が非常に悪かったんですね。逆に剣神の経津主さんには相性が良いですね。」
…かたや日本最強の風神、かたや引きこもりのちびっ子、オタマが勝てるビジョンが全くわかない。勝敗は火を見るよりも明らかだ。
「うむ…そうなのじゃ!おぬしは昔ワニに噛まれてワニがトラウマになってたりするとかそういうご都合展開があるはずなのじゃ!」
「ないな。俺は龍の化身だ。龍がワニに噛まれても大したキズは負わねえわな。」
タケミナカタさんの首飾りの玉が威嚇するようにギラリと鋭い光を放った。
「…というわけですから、小玉姫さん。怪我をしないうちに早めに降参した方が良いと思いますね…。」
「オタマ、俺もそう思う。」
「……いやなのじゃ。」
「小玉姫さん?」
「わらわが降参したら、大和は助けられないのじゃ。…あやつを倒して大和を助ける。これは捻じ曲げられないのじゃ!」
その言葉にタケミナカタさんは満足げに頷く。
「いい根性だ。しかし…あまりに一方的でもつまらんな。…よし、俺は両腕を使わない。俺に腕を使わせたなら…嬢ちゃんの勝ちで良いぜ。」
「なぬ!?それはまことか!?」
「ああ、二言はない。」
「それなら…勝ち目があるのじゃ!後で吠え面かいても容赦はしないのじゃ!」
「ハッ!こっちのセリフよ!行くぞ!」
タケミナカタさんはそう言うと右足を大きく振り上げ、気合いを込め地面に撞き降ろす。すると、衝撃を受けた地面は轟音を立て隆起し、地割れを伴い一直線にオタマを襲撃した。
「ふぎゃっ!」
オタマは隆起した土の塊の直撃を食らい軽々と宙を舞い地面にべしゃりと叩きつけられてしまった。
「オタマ!大丈夫か!」
「あれは…諏訪湖名物の
オオカムヅミさんのそんな解説はどうでもいい。
「ぐぬぬ…大丈夫なのじゃ!手さえ使わせればわらわの勝ちなのじゃ…。」
「でもお前の水術はタケミナカタさんに全く効かなかったぞ…。」
「案ずるな大和よ。ちゃんと作戦はあるのじゃ。武御名方よ!えーと、そういった遠距離ではなく男らしく近距離…特に懐に突っ込んでくるようなインファイトでかかってくるのじゃ!」
オタマはあからさまに近距離戦を誘っている。考えられることとしては、まず間違いない。懐に誘い込んでカウンターを叩き込もうという魂胆だろう。
「うん?…よっしゃあ!その挑発乗ったぜ!」
圧倒的に格上の余裕からか、タケミナカタさんはオタマの誘いを真っ向から乗った。猛然と勢いをつけ、一気にオタマとの距離を詰める。
オタマの術のレパートリーはかなり少ない。そんな中から、水神でもあるタケミナカタさんにまともにダメージを与えられる術は限られている。思い当たるとすれば…
「ここなのじゃっ!」
─海神の鉾!
オタマは両手に水を生成し縦に伸ばすとその水は一瞬にして鉾を形取り、一直線にオタマに向かってくるタケミナカタさん目がけて射出した。
超高圧な水は岩をも切断すると言う。鋭利な水の刃による物理攻撃ならばいかに圧倒的格上の神であるタケミナカタさんと言えどもダメージを負うだろう。それをカウンター気味に叩き込もうというのがオタマの作戦なのだろう。しかし、その作戦には問題があった。俺もその問題点を知っている。
ヒュンッ! ストッ
オタマの手から射出された海神の鉾は勢いよく地下室の壁に突き刺さった。タケミナカタさんの身体には、かすりすらしていない。オタマの海神の鉾は…標的に全く命中しないのだ。
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