第47話 攻略方法

─ 大国主の館、地下牢


「いやあ、やっぱり国産横綱が出ると盛り上がるよな!」

「…そうですねー…。」

 俺、堀大和は地下牢の中で、タケミナカタさんと相撲中継を見ていた。タケミナカタさんは親戚と顔を合わせるのは久々だから恥ずかしいと言って、ずっと俺が入れられている地下牢に入り浸っており、いつの間にかテレビまで持ち込んでいた。


「いや、これは相撲ブームが来るな。マジで。兄ちゃんもそう思うだろ?」

「そうですね…ジャンプでも漫画やってますしね…来てもおかしくないですよね相撲ブーム。」

「やっぱそうかー!久々に来るか!俺の時代が!」

 タケミナカタさんは上機嫌だ。俺は漫画の知識くらいしか相撲は知らないけど、楽しく相撲を見ているタケミナカタさんを見ると相撲も良いもんだなぁと思ってくる。


「まあでも、やっぱり見るより実際にやる方が楽しいよな。兄ちゃん一番やってみるか?」

「いや…絶対死にますから…。いや、もう死んでたか…ははは。」

 笑えない。俺は果たして生き返れるのだろうか…。



「大和!助けに来たのじゃ!」

「オタマ!?どうしてここに!」

 タケミナカタさんと談笑?しているところに、突然オタマが階段を駆け下り地下室に飛び込んできた。

「うむ。月読殿や磐長姫ねーさまたちと一緒にお主を助けに来たのじゃ。みんなはクズハに足止めを食っておるのじゃが、わらわだけは何とかすり抜けてやってきたというわけなのじゃ。」

「みんな…俺を助けに来てくれたのか…。ところで後ろの女性の方は?」

 オタマの後ろには、見たことのない綺麗な女性が着いてきていた。


「こんにちは堀さん。私は意富加牟豆美(オオカムヅミ)。伊弉諾様が伊弉冉様から逃げる時に、追手の八雷神やくさいかずちのかみを退けた桃の精ですね。伊弉諾様からは『生者が困ったときに助けてやってくれ』と言われていますね。とは言っても黄泉の国に生者なんてそうそう来ないですからねー。久しぶりのお勤めですね!」

意富加牟豆美オオカムヅミさんには地下への道を教えてもらったのじゃ!」

「わたくしは戦いはできませんが、道案内と邪鬼払いはできるのですね!」

「そうでしたか…オタマを助けてくれてありがとうございます…。」

「さあ大和!檻から出てとっととこんな辛気臭いところから現世に帰るのじゃ!」

「わかった!」


「ちょっと待ったァ!!」

「む?おぬしは…。」

「その兄ちゃんは姪っ子の旦那になる男だ。逃がすわけには…行かねえな。」

 横になってテレビを見ていたタケミナカタさんが、ゆっくりと体を起こす。オタマが小さいせいか、タケミナカタさんの体格はより大きく見える。

「姪っ子の旦那…というとクズハの伯父じゃな…。しかし事代主とか言う伯父はてんで大したことなかったのじゃ。」

「ほう…?兄者を倒したのか。」

「うむ。わらわの手に掛かればちょいちょいだったのじゃ!おぬしも怪我をしたくなければおとなしくしておるのじゃ!」

 多分オタマの作り話のハッタリだろうが何やらすごい自信だ。


「面白い…」

「ほえ?」

「面白いぜちびっ子の嬢ちゃん!ずっと諏訪に籠ってて退屈な生活だったんだ。神同士の力比べと行こうじゃねえか!」

 タケミナカタさんが叫ぶと空気がびりびり振動した。相撲のはっけよいの語源は発気揚々だという説があるそうだが…まるでタケミナカタさんの全身から気が発せられ、それが空気を震えさせているかのようだ。

「オタマ逃げろ!これは…ヤバそうだ!」

「案ずるな大和よ、この菊理姫ククリヒメから借りたスマホでそやつの弱点を調べればちょいちょいなのじゃ。…だからそこのおぬし!名を名乗るのじゃ!」

「俺か?俺は武御名方タケミナカタだ。よろしくな嬢ちゃん。」

「うむ。礼儀正しい男なのじゃ。そして…かかったな馬鹿め!なのじゃ!『タケミナカタ 攻略wiki』と…。」

 オタマはスマホを慣れない手つきで操作している。そこに意富加牟豆美オオカムヅミさんが話しかける。

「いやー…勝てないと思いますよ。武御名方さんは激強ですからね…。逃げた方が良いですよ小玉姫さん。」

「ふむ…。でも攻略wikiを見ると大したことなさそうなのじゃ。レベル29で電撃反射、と。」

「あー…そのゲームのシリーズの武御名方さんは武甕槌タケミカヅチさんの下位互換として設定してるっぽいのでむちゃくちゃなのですね…。ゲームのwikiじゃなくて普通のwikiを読んだ方が良いですね。」

「ふむ…?武甕槌に負けたと書いてあるのじゃ。つまり負け犬、いや負け神なのじゃな。やっぱり余裕そうじゃ。」

「オタマ…お前なんて失礼なことを…。」

「いや、武甕槌の奴に負けたのは事実だ。だが、相性が悪かった武甕槌以外には…負ける気がしねえな。」

「力比べを挑んで術に負けたと書いてあるから術に弱いはずなのじゃ。よし!そこの敗北者よ!わらわの水術できりきりまいにしてやるのじゃ!」

「嬢ちゃんは水術使いか。よっしゃあ!かかってこいや!」


 オタマは自信たっぷりだが果たして戦いになるのだろうか…。戦いの幕が開く。

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