第41話 くさった蛤(詩集『月に吠える』より)
「さすがは音に聞こえた大国主の館だな。セキュリティも万全、と言うわけか。」
櫛の歯に点いたともしびをゆらゆら閃かせ、月読が周囲を伺う。
「ええ…ですが大した使い手は居ませんね…やりますか?」
「
「子の方向に三、卯と酉に二ずつ、計七人の気配、ってところですね。これなら各方位抜き打ちでカタが付けられれば各5秒もかかりません。20秒から…多めに見ても1分も必要ありません。俺にかかればね。」
そう言うと、経津主は月読の号が下り次第跳びかかれるよう、息を大きく吐き、腰を落とし招剣の構えを取る。
「ちょっちょっと待ったっす!」
一寸思索に及んだ月読が声を上げようとしたところ、
「ダメっすよ!ここでおっぱじめたら、この後もうのっぴきならなくなりますよ!」
「殺す気はありませんよ。ちょっと寝ててもらうだけです。」
「経津主様!飛び込んですぐ武力行使ってのは強盗と変わらないっすよ!」
「って言ってもなぁ…。」
「何か良い案があるのか、菊理姫。」
「っす!お任せください月読様!」
「…わかった。頼んだぞ菊理姫」
「ラジャっす!」
すたすた
自信満々に応えた菊理姫は無防備に暗闇の中に歩みを進めていった。
「何者ダッ!」
その菊理姫を番人の鬼が咎める。
「あっ、どうもっす!
菊理姫は周りに聞こえるよう、響く声で大ウソを吐き捨てた。
「ナンダ…天ぞんノ配達員カ…。驚カセヤガッテ。」
「姫様マタ何カぽちっタノカ…。」
「披露宴用ノ檻ヲ天ぞんデぽちっタッテ言ッテタ。」
「マタ檻カヨ…。」
「旦那ヲ入レルラシイゾ。」
(檻か…。)
(檻って天ゾンで買えるものなんですね…。)
(わらわも大和を入れる用の檻を買っておくのじゃ。)
「アッ、配達員ノ皆サン。ゴ苦労サマデス。姫ノ部屋ハアッチデスヨ!」
「ご親切にどうもっす!さ、みんなもこっち来るっすよ!」
(ちょろいな…。)
(ちょろいですね…。)
(良い鬼なのじゃ。)
こうして月読一行は人の好い鬼に先導され、葛葉の部屋に導かれていった。
──────
─ 一方その頃、天界・高天原
「ここが
「はーい、どなたですか?」
「私は
「塩土老翁様…お名前はかねがねお伺いしております。わざわざよくいらっしゃいました。わたくしは𧏛貝です。海神の中でもご高名な塩土様にお会いできて光栄です。」
「いやいや…同じ海系の神同士、堅苦しいことは抜きにしましょうぞ。」
「立ち話も何ですから、中にお入りください。今お茶を淹れますので。」
「気を遣わせてしまってすみませぬな…。お邪魔しますぞ。」
┌(┌^o^)┐ カサカサ…
「?妙な虫のようなものが居りますな…。」
「あっそれは…気にしないでください。一応…触らなければ無害ですから…。ところで塩土様、何のご用件でいらっしゃいますか?」
「うむ…実はかくかくしかじか、手違いで斬殺されてしまった人間の肉体再生を𧏛貝姫殿と蛤貝姫お願いしたくてですな…。」
「その人間と言うのは堀大和さんですか?
「ご存じであれば話が早い。左様ですぞ。」
┌(^o^┐)┐
「…厳しいことを言うようですが、今回の件は一方的に高天原側の手落ちです。高天原側に肩入れしてしまうと、国津神側に顔が立ちません。…残念ですが、手を貸すことはできかねます。」
「むぅ…その…天照様がぽんこつでダメ神だというのはごもっともではあるのですが…そこを何とか。」
「ちが…そこまでひどいことはわたくし言っておりません!それに、私の一存ではなんとも…。我々の主である神産巣日神(カミムスビノカミ)様に無断で動くわけにも参りませんし…。」
┌(┌^o^)┐
「うむぅ…やはり神産巣日神様にもお話せねばなりませぬか…。」
「あの方は高天原とか出雲とか超越したリベラルな方ですから…やはり高天原側に肩入れするのは難しいのではないでしょうか。」
「ところで𧏛貝姫殿。」
「なんでしょう?」
「先ほどからウロウロしてるこの気持ち悪い┌(^o^┐)┐は何なのですかな…。半身は砂にうもれてゐて、それで居てべろべろ舌を出して居る珍生物は。」
「……それ、蛤貝姫です。」
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