第40話 SUMOの起源
「タケミナカタさんですか…こんにちは…いや、こんばんは?」
こっち…黄泉の国に来てからどうも時間の感覚がない。なにせ明かりがついていないところはいつも真っ暗だから。もしかするとこの妙な時間間隔がクズハの頭のネジがゆるい原因の一端なのかもしれない。
「どっちでも構わねえよ。ここはいつも夜みたいなもんだからな。まったく陰気なもんだ。」
「そうですね…でも住むと慣れるもんですかね…?」
「慣れるらしいな。俺は一向に慣れないけどな。」
「あれ?タケミナカタさんはここに住んでるんじゃないんですか?」
「俺はいつもは諏訪に居るんだが、姪っ子の結婚式があるってんで呼び出されたクチだ。うちの一族はイベント好きだからな。本当は昔、
「そうだったんですか。じゃあ家族と会うのも久しぶりなんですね。」
「まあな…だけど久しぶりに会うってのは気まずいもんだからな…だからちょっくら避難してきたってワケだ。兄ちゃん少し邪魔するけど勘弁な。」
うーん…この座敷牢に居つかれてしまうのも落ち着かないけど、フランクで話しやすい神様で、少し張り詰めた俺の気持ちも和らいだように感じる。…どうせ軟禁されている身だし、多少なりともコミュニケーションがとれるこの神様と雑談している方が気が紛れるかもしれない。
「それにしてもすごい筋肉ですね、タケミナカタさん。」
「おっ、わかるかい?ハッハッハ!いつも鍛えてるからな。」
タケミナカタさんはむちっと服の上からでもわかる大胸筋のハリを強調した。
「どうやって鍛えてるんです?三途の川でオバちゃんに『もっと鍛えた方が良い』って言われたもので…。」
「うむ、相撲だな。」
「相撲?」
「ああ、俺は見ての通り力自慢だが、さっき『武甕槌に負けた』って言ったのは相撲…あいつはいろいろ術を使ったから厳密には相撲とは言えないが、まあ相撲で負けたから次は負けないようにな。」
「へえ…神様の時代から相撲ってあったんですね。」
「ああ、今の相撲の起源とされてるのが俺と武甕槌の力比べだ。兄ちゃんは俺のことを知らないみたいだけど俺もその界隈だと有名なんだぜ。」
「勉強になります。」
「常に体は鍛えてるからな。もう誰が来ても負けない自信があるぜ。たとえ天界の奴らだろうとな。」
「さすがですね。」
「ハッハッハ!まあ天界の奴らと会う機会なんてないけどな!」
──────
─ 一方その頃の月読たち
「回線の出口が見えたっす!ここを抜けるともう黄泉の国っすよ。準備はいいっすね?」
「ああ。さて、黄泉の国のどこに出るか、だが…。」
月読一行の5柱の神々は、すぽぽーんと冥界通信の回線から飛び出した。
「真っ暗で何も見えないのじゃ…磐長ねーさまそこに居るのじゃ?」
「ここに居ますよ…しかし、本当に何も見えませんね。」
「明かりをつけるよ…ちょっと待っててくれ。」
月読はそう言うと、懐から櫛をひとつ取り出し、櫛の歯を一本折って火を灯し明かりとした。
「月読様はいつも櫛を持っててお洒落さんなのじゃのう。」
「小玉姫…これは身だしなみを整えるとかそういう用途に使う櫛じゃない。櫛は黄泉の国に来る時の必須アイテムだ。こう明かりにも使うし、鬼から逃げる時にも術の触媒に使えるものだ。」
「伊弉諾様の櫛っすね。天界でもバカ売れの便利グッズっす。ちなみに量産品っすよ。」
「あの…月読様。」
「なんだい磐長姫。」
「周りを見てください。」
「…建物の中だね。」
「ここはもしや…大国主様の屋敷の中、では?」
「…菊理姫。」
「いやあ…よく考えてみればそうですよね。冥界通信のケーブルを通って来たんですから、そりゃ、通信ケーブルの繋がってる先は家の中ですよね。あっはっは。」
「…」
「…」
「…まあ目的地に直で到着したわけだから良しとしようか…。侵入したこっちが面食らってしまったが。あとは、家の者に気が付かれないように大和の居場所を探して…。」
「月読様、そのことですが…。」
「
「もう気が付かれてますね。姿は見せませんが…結構な数に囲まれてます。」
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