第39話 イントゥ ダークネス
「メ~。」
人の少なくなった大和の家でヤギが鳴いている。主を送り出し、心なしか寂しさの漂う鳴き声が。
「ヤマト、無事に生き返れるといいんだけどな…。…もし仮に、みんなが帰って来なかったらこのヤギ魚はどうすればいいんだろうな…。」
「ぱせりがお世話するよ!」
「ぱせりちゃんは動物が好きだからな…。しかしこれは…動物?」
「メ~。」
マーちゃんは肯定なのか否定なのか、背びれでタンタンと床を叩いた。
──────
「そろそろ回線の出口っすね…。黄泉の国への突入前に打ち合わせしておきましょう。」
「そうだね…。この中で黄泉の国に行ったことがあるものは居るかい?」
「ないです。」
「オレもないですね。」
「ないのじゃ。」
「僕も行ったことはないから…菊理姫だけか。」
「月読様も行ったことがないのですね。」
「昔は父様から固く禁じられていたからね。」
「妹の
「へぇ…ちょっと羨ましいな。僕は母様とも会ったことがないからね。」
「イベントって…一族で運動会をしたりするのかのう…?ところで黄泉の国とはどんなところなのじゃ?」
「高天原が天界、人間の住むところが地上とすると黄泉の国はいわば地下っすね。明かりがないと真っ暗っす。私も黄泉の国は入口のところしか知らないんで、詳しい地理はわかんないっす。」
「ちょっと待ってくれ。そしたら黄泉の国に到着したとして、大国主の屋敷には行けないんじゃないか。」
「経津主、だからお前の力が必要なんだ。」
「?」
「適当にそこらへんの鬼を捕まえて尋問して聞き出すんだ。有名人の家だから誰かしら知っているだろう。」
「月読様えげつないっすね…。」
「そして邪魔が入れば経津主が倒す。」
「いや…それ問題になりますから…。天照様が泣きますよ?」
「ところで月読様、『経津主なら大概の国津神には勝てる』ということでしたが、勝てない国津神が居るのですか?」
「ああ、国津神の武神 武御名方(タケミナカタ)が出てくると、おそらく経津主では分が悪い。」
「あいつは怪力ですからね…。いかにオレが剣の神とはいえ、正面からの力勝負ではちとキツイかもしれませんね。」
「まあ武御名方は大昔に武甕槌と勝負して、武甕槌に負けて諏訪の地から出ないことを約束しているはずだから黄泉の国には居ない。神無月に出雲に戻ることも免除されているくらいだから居るはずがない。心配は要らないだろう。」
「それなら安心なのじゃ!」
「安心ですね。」
「安心っすね!」
(…何か猛烈に嫌な予感がしてきたんだがオレだけだろうか。)
──────
「あれー大和くん食事摂ってないの?食べないと体に悪いよ。」
「コトシロヌシさん…。いや、こっちの食べ物を食べると現世に戻れなくなるんですよね…?食べませんよ!」
「きみもう死んじゃってるしねぇ…。うーん、仲間になるなら早い方が良いと思うけどねー。遅くとも来週には家族になるんだし。最初は僕ら一家もこんなところ嫌だったけど住めば都だよ?じゃ、新しいごはん置いていくから、気が向いたら食べてね大和くん。」
「おうちかえりたい…。」
思わずこぼれた言葉に、お腹がぐぅ、と返事をした。死んでるのにお腹がすくんだな…思えば死んで三途の川に行った時から何も食べていない。とはいえ、どんなにお腹がすいたとしても餓死しないのはわかり切っていることだからその点は安心ではある。
地獄からコトシロヌシさんに連れてこられて、今は黄泉の国の牢屋の中…。一応俺は花婿になる予定のはずなのだが、牢屋なう。「勝手に逃げないようにー」とコトシロヌシさんは言っていたけれど、逃げたところで土地勘もないし、一人で帰ることもできないからその点は心配しないでほしい。そして、今の差し入れでごはんは2回目。三途の川からいろいろあったが、まだあまり時間は経ってないようだ。
牢屋に入るのは人生初めて(…もう死んでる以上人生と言っていいのかわからないが)の体験だし、気が滅入ってくる。俺が「新しい家族になる」という物珍しさからか、ひっきりなしにクズハの親族が見物に来て、いちいち対応するのもなかなか気苦労が多い。少し話すだけでも、クズハにはやたら親族が多い。もう2桁は超えているだろうか、さすがに疲れてしまった。
「これがマリッジブルーってやつなのだろうか…。」
いや、多分違う。
「おっ、アンタがクズハちゃんの婿さんかい?」
ほらまた来た。
「はい。俺…僕自身に結婚する気はまだなかったんですが、そういう体で連れてこられました…。堀 大和です、どうも。よろしくお願いします。」
精悍な若い男の人のように見えるが、この人…神様?もクズハの親族だろう。
「そうかそうか!俺はクズハちゃんの伯父にあたる
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