第34話 @賽の河原

─ 黄泉の国・大国主の館


「えーっ!大和まだ来ないのー!?まだー!?」

 葛葉がすっとんきょうな声でわめいている。葛葉は大和が死んだことを知ってから、ずっとこんな調子で、周りの鬼たちを困らせている。


「どうやら仏教のほうのあの世に迷い込んでるみたいで…。大国主様が交渉のために事代主(コトシロヌシ)様を向かわせてるようなので、いい加減落ち着いてください…。」

「無理やり強奪して拉致っちゃえばよかったのに!」

「そうもいかないんですよ。仏教のあの世は我々のテリトリーではないので、魂をこっちに持ってくるのにもちゃんとスジを通す必要があるんですよ…。」

「むうう…。じゃあ瑞穂おかーさんと結婚式のドレス選んで待ってるから…。」

「あー…そっとしてあげておいたほうが…瑞穂さん息子さんが死んでかなり沈んでますから…。ってもう居ない。あーもうめんどくさい…。」


──────


─ 一方で大和は


「どうやら目を覚まされたようですね。」

「…ここは…?」

 気が付くと、そこはいわゆるゴロタと呼ばれるような、大小の丸い石が敷き詰められたような場所だった。


「ここはあなたたち人間が三途の川、と呼んでいる場所です。少し歩くと川が見えてきますよ。」

「なるほど、俺は死んだから三途の川に来たってわけだ。」

「理解が早いですね。助かります。」

「ところで親切に教えてくれるあなたは?」

「鬼です。」


 うーん…イメージと違う。違いすぎる。ツノは生えてるけど、なんかラフなファッション…パーカーだし…。縮れ毛のイメージだけど、縮れ毛というよりもおしゃれなパーマだ。

「鬼さん…ですか。虎のパンツのイメージだったんですけれど…。」

「私は日本担当の鬼ですから。本来日本に生息していない虎製品を身に着けてるとそこらへんツッコミが入ってしまいますからね。加えて言うと現代では虎皮はワシントン条約で日本への持ち込みが禁止されています。禁止されていることを法の規範たるべき我々鬼が率先して侵すことなんてできませんよ。」

「そうなんですか…。」

「動物を密漁したり密輸して地獄に落ちる人間に『鬼だって虎製品身に着けてるじゃないか』って屁理屈をこねられたら面倒ですからねぇ。浮世も世知辛いですがあの世も世知辛いんですよ。」

「大変ですね…。」


「さておき、新しく死んだあなたに簡単に手続きを案内しますね。はい、初回講習の教本。」

「あ、どうも。…初回!?」

「まだここ三途の川ですから。ここまで来て説明受けてやっぱり帰るーって人も少なくないんですよ。」

「よし、帰ります!」

「いえ、あなたは肉体バラバラなのでムリです。諦めてください。はいじゃあ教本開いてくださいね。」

「そうですかー…。えーと…。」

 俺は貰った教本の1ページめを開いた。にこやかな笑みを浮かべた閻魔大王の挨拶文が書かれている。

「なんかイメージと違いますね、閻魔様。」

「怖がる人が多いですからね。特にちびっ子には泣かれてしまうので、怖い顔だと話が進まないんですよ。」

「ちびっ子、と言えば俺は賽の河原の石積みはしなくても良いんです?」

「なさりたいんですか?」

「いえ、遠慮したいです。」

「あれは日本の民間ローカルルールですから強制イベントではないですよ。我々鬼も含めて誰も得をしないのでオススメしません。そもそも近年の日本人長生きすぎでいちいちやってたら子どもだらけですよ…。」

「そうなのか…ちょっと安心した…。」


「えー、ではあなたの今後ですが、裁判漬けです。49日間で7回の裁判を受けていただきます。」

「そんなに。」

「そのあと、解脱ポイントが足りていなければ六道のどこかに転生することになります。まあ別に悪いことしてなければ大体人間道に行きますよ。六道について詳しくは教本を読んでくださいね。」

「解脱ポイント…?」

「現世で徳を積み解脱ポイントを溜めることで輪廻の輪から解脱することができます。ポイントを消費して来世ガチャを引くこともできますよ。」

「すごく…俗っぽい…。」

「今は異世界に転生するキャンペーンガチャを開催中です。最高レアを引けばチート能力と現代知識で無双できます。いかがですか?」

「よし!」




『希望を捨てるな─』


 はっ…俺は正気に戻った!

 危うく転生ガチャに釣られてしまうところだった。月読さんが何とか手を尽くしてみる、と言っていたのに、自ら後戻りができない方に行ってしまうところだった。


「すみません、実は神様が俺をよみがえらせてくれるかもしれないんです。ええと、月読っていう神様なんですけどご存じですか?」

「私はブッディストなのでそっち方面以外は知りませんが…なるほど、レアを引いたのは私だったということですね。稀に居るんですよね、あなたのように神の息のかかった人や、蘇生が約束されている人が。」

「どうすれば良いですかね…。」


「魂の引き渡しの手続きがありますので、私の上司である地獄の判官にその話をしてください。」

「地獄のホーガン…?そのホーガンさんはどちらに…?」

「三途の川の向こうですよ。」

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