第35話 インフェルノ銀河
「三途の川…渡るんですか…?」
「ええ。」
「戻ってこられなくなるとかありません?だまそうとしてるとか…?」
「いえ、ちゃんとした手続きを踏めば大丈夫ですよ、ご安心ください。」
「そうですか…。ちょっとドキドキするな。」
「ほかにご質問は?」
「…いえ、今のところは。ご親切にありがとうございます、鬼さん。」
「そうですか。それでは良いあの世の旅を!」
*
一面に広がる丸い石を足でカチャリカチャリと鳴らしながら、河原を進んでいく。不安になりながらもしばらく進むと、だだっ広い幅の川に突き当たった。これがかの有名な三途の川か…。もっと後の人生でお目にかかりたかったものだ。ちゃんと目立つように船着き場も用意してある。
「すみませーん、川の向こうに渡りたいんですが…。」
「むっ!…ぃやったーっ!若い男だ!」
なんかテンションの高いオバちゃんの船守さんだな…。
「あいよ!さあ服を脱ぎな!」
「…。初対面の人に『服を脱げ』と言われましても…。あれですか?宮沢賢治の本に出てくる後で食べる系のアレですか?」
「渡し賃の替わりだよ!向こう岸に渡るには渡し賃の六文が必要なんだよ!はよ!」
「えーっ!見知らぬ人に裸を見せるなんてそんな…。」
「つべこべ言わずに脱がんか!それともアタシがひん剥いてやろうかしら!」
「いやああぁぁぁ!!穢される!!」
──────
─ 一方その頃、大和の家
「何とか形式上は終わったな。」
「おつかれさま、マサルくん。これでお兄ちゃん大丈夫かな?」
読経を終えて一息ついたマサルとぱせりが話している。
「そういえばうちの寺では、故人があの世でもお金に苦労しないようにお金を模した紙を棺桶に入れて火葬にしてるけど…一応ヤマト(×3)の肉体が入ってる箱の隙間にねじ込んでおくか。何かの役に立つかもしれん。」
「届くといいね!」
──────
─ 戻って三途の川
ひらり ひらり
「あっ!何も無い所からお金が湧いたぞ!字が書いてある…『ヤマトがんばれよ。死中に活有りだ。』…この字はサルか!死んでるからってうまいこと言った気になりやがって…でも恩に着るぞ!オバちゃん!あったよ!渡し賃!」
「うるせー!アタシは渡し賃なんてどうでもいいんだよ!金より若い男の裸が見たいんだよ!いやむしろこっちが金を払うわ!!いくらだ!いくら欲しいんだい!?」
「変態だー!」
「貴ッ様ァ!!客がじいさんばあさんばっかりでこっちは辟易してるんだ!たまには裸の若い男と船上で2人きりになりたい乙女心がわからんのか!!」
「それは乙女心ではない!下心だ!」
「つべこべ言わんと脱がんか!いや!脱がす!ジュルリ。」
「うわっ!すごい力だ!」
*
「へっへっへ…毎度あり。おニイちゃんもっと鍛えた方がいいねぇ。」
さすが職業船守だ…舟をこぐことで鍛え上げられたオバちゃんの腕力の前に、抵抗むなしく俺は真っ裸にひん剥かれてしまった。
「向こうに渡ったら服を返してくれるんですか…?」
「これはもうアタシのコレクションだよ!」
「それじゃ俺これからずっとフル**なんです!?もうお婿に行けない…。」
「フル**くらい気にしちゃダメよぉ。男の子なんだから。」
「すんすん…。」
──────
─ 一方その頃、大和の家
「ぱせり!マサルよ!ゴリラ塚から保冷剤をもらってきたのじゃ!」
「オタマさん気が利くなぁ。涼しくなってきたとはいえヤマトの身体が腐るとよくないからな。」
「中身を見るのは怖いから箱の周りに保冷剤をぐるぐる巻きにしておこうね!」
──────
─ 戻って三途の川
「…ブルッ!なんだか寒くなってきた…。舟の上で裸はやっぱりキツいな…。」
「最近の子はだらしないねェ…。」
「あんたが俺の服をはぎ取ったからだよ!服返してよ!」
「~♪」
オバちゃんは応えずに舟をこぎながら鼻歌を始めた。風を遮るものもない舟の上、俺の身体は激しい風にさらされ続けている。
「ハークショイ!ズズズ…。」
「おっ…寒いならオバちゃんがあっためたげよっか!?」
「断る!」
「う~ん仕方ないねぇ、裸なのを恥ずかしがってもじもじするのを見たかったから黙ってたけど、向こう岸についたら服屋さんあるから。そこで新しいおべべ買いなさいな。お金あるでしょ。」
「…へー、あの世にも服屋さんがあるんですね…。」
「そうそう。できたのはつい近年なんだけどね。ファースト…ファーストフードてやつ?」
「ファストファッションのことか…?なるほど、さっきの鬼さんがラフなファッションだったのはその店で服を買ったからか。」
「そうそう。鬼のお客さんも多いらしいのよ。最近は服飾規定も緩くなってるってウワサだから。」
「へー。うちもよくファストファッションのお店使ってたからちょっと鬼さんに親近感がわいてくるなぁ。」
「まあ店員さんは全員地獄に落ちた人間らしいけどねぇ。」
「えっ…?」
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