第33話 作戦会議

「何やら家から辛気臭いお経が聞こえるのじゃ…わらわの第一信者ぱせりー!ゴリラ塚から焼き菓子貰ってきたのじゃー…ってなんじゃこりゃあー!!!!ぱせり!ぱせーり!どういうことなのじゃ!」

 居間でぽくぽくと木魚を叩きながらお経を読み上げているマサルを見て、小玉は絶叫した。

「オタマちゃん…お兄ちゃんが死んじゃったから…そのお葬式。」

「さっぱりわからんのじゃ…どういうことなのじゃ…。」

「小玉姫、かくかくしかじかですぞ。」

「なん…じゃと…。」


「君が大綿津見の娘か。これで関係者が揃ったな。」

「お主は誰なのじゃ?」

「月読殿ですぞ。失礼の無いように…。」

「知らんのじゃ。」

「…三貴子のひとりで天照殿の弟君ですぞ…。」

「あー!天手小町で『くその役にも立たない弟』って書かれてたあの…」

「シーッ!聞こえますぞ!」

「聞こえてるよ…。まあ本当だからいいけどね。そろそろ大和奪還の作戦会議を始めても良いかな?」


 *


 居間でマサルがあげているお経を聴きながら、作戦会議は始まった。参加者は月読、磐長姫、塩土老翁、経津主、菊理姫ククリヒメ、ぱせりの6人。


「さて、課題は二つ、だ。」


・大和の魂の奪還

・大和の肉体の再生


「僕は肉体再生の法を使えないから、別の神に依頼することになる。」

武甕槌タケミカヅチの兄貴も反魂の法が使えるから肉体再生もできるかも。」

「いや、あいつは奪還作戦の方に参加してもらいたい。」


「あっ、天照様と武甕槌さんから神メールが届いたっすよ!」

──────

 天照「ごめんね。菊理姫ちゃん適当にごまかしておいてね。」

 武甕槌「死ぬとは思わなかった。今では反省している。あと、おなかいたいのでからそっちには行けません。」

──────


「…。」

(姉さんのこれは謝罪のつもりなんだろうか…)

(武甕槌の兄貴…逃げやがった…)

(仕方がありませんね…代わりに経津主をもっとボコりますか…)

(さすがにフォローしようがないっすね…)


「た、武甕槌が来られないのはまいりましたな…。」

 各々の思惑で静まり返ってしまった中、塩土老翁がようやく言葉をつむいだ。

「ああ、あいつは脳筋だけどやたら強いし、国津神特攻持ちだからね…。」


「話を戻そう。大和の魂奪還作戦は経津主、キミは確定。」

「(拒否権はないんだろうな…)ウス…。」

「経津主も国津神には強いから、居るだけでも余計な戦闘は避けられるだろう。戦闘になっても大抵の国津神には勝てるだろうしね。」

「『大抵は』というのがひっかかるのじゃが…。」

「なに、思い当たるのは二柱くらいだ。そのうち一柱は黄泉の国には居ないから大丈夫。あと一柱は僕の弟、素戔嗚だ。だから、素戔嗚と遭遇した時のために僕も同行する。もっとも、戦力的には僕はからっきしだけどね。」

「司書さんは戦い苦手なの?お月様の神様だと伊達政宗とか戦国武将のイメージがあるんだけど…。」

「あー…あれは僕じゃなくて妙見菩薩みょうけんぼさつ、神的には宇宙の神の天之御中神(アマノミナカノカミ)様への信仰だから。僕への信仰じゃないんだよね。」

「剣術で有名な北辰一刀流の源流も同じく妙見菩薩みょうけんぼさつへの信仰ですな。月読様を信仰している人は割とレアですぞ。」

(何やら親近感を感じるのじゃ。)


「やはり素戔嗚様ですか。私も同行しましょう。」

 ズァッと磐長姫が立ちあがった。

「磐長姫、危険かもしれないから君は無理に来なくても…。」

「いえ、素戔嗚様には私の身内が嫁いでいますから。いざとなれば私も顔が効きます。それに、クズハさんが邪魔をしに来ても私なら物理的に追い払えますから。何より大和様が困っているのに黙って待っているわけにはまいりません。」

「身内が嫁いでいる…そうだったっけ。塩土老翁説明頼む。」


「はい。素戔嗚様の最初の妻の櫛稲田姫(クシナダヒメ)─八岐大蛇のエピソードで有名ですな─は大山祇オオヤマツミ殿の孫ですから、姪っ子にあたりますな。あとは、その次の妻の神大市姫(カムオオイチヒメ)も磐長姫殿の妹君ですな。」


「複雑なのじゃ…。」

神大市姫カムオオイチヒメは、子どもの大年神(オオトシカミ)と宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)が民間信仰でメジャーですな。大年神は一年の神、宇迦之御魂神は稲荷神として有名ですぞ。」


「姪っ子が既に嫁いでいるのに私と来たら…。」

「落ち着け磐長姫、わかった、君も参加してもらう。…あとは、道案内と、伊弉冉イザナミ母様が出てきた時のための保険として菊理姫、君も来てもらいたい。」

「うーん、まあ乗りかかった舟っすから…わかりました。」


「あとは大和の肉体再生だけど、これは頼みたいアテがある。この交渉は塩土老翁に頼みたい。詳しくは後で説明する。」

「かしこまりましたぞ、おまかせくだされ。」


「というわけで、奪還班は、僕と、経津主、磐長姫、菊理姫の4柱、再生は塩土老翁だ。」

「待つのじゃ!…わらわも奪還班に参加するのじゃ!」

 意を決したように、小玉が声を張り上げた。それに対し、塩土老翁が優しくいさめる。

「小玉姫のレベルでは足手まといが良いところですぞ。例えるならロマリアに到着してすぐにアッサラームに向かうようなものですぞ。」

「例えが古いのじゃ!…磐長姫ねーさまも言っておったが…わらわだって大和が心配なのじゃ…。」


「小玉姫…月読殿、いかがですかな。」

「そうだな…経津主が居るとはいえ危険がないとは言い切れない。もしもの時、自分の身は自分で守る、それを原則とする。それでも、ついてくるかい?」


「もちろん、なのじゃ!」


「…わかった。それじゃ、奪還班は5柱だ。みんな、頼んだよ。」

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