第30話 ダイレクトマーケティング

「マサル!マサルはどこなのじゃ!」

「おや、オタマさん。どうしたんだ?」

 寺の息子、本宮 マサルは寺の敷地内の掃き掃除をしているところだった。

「ほう、掃除とは感心なのじゃ。」

「ああ、これから秋が深まるにしたがって落ち葉も増えてくるからな。うちのお墓の人たちが気持ちよく眠れるように、普段から掃除はキチンとしておかないとな。」

「ふむ…。(耳が痛いのじゃ)」

「まあオレも親父に言われてやってるんだけどな。…ところで今日はどうしたんだ?」

「うむ。マサルよ。わらわを信奉するのじゃ!」


「…うち見ての通り仏教なんスけど…。」

「信じるだけならタダなのじゃよ!?」

「うーん、そうだな…まあ細かいことはいいか。うちの土地にもお稲荷様祀ってるし…いいぜ。草野球でも活躍してもらったからな。また一緒に野球やろうな。」

「野球は正直もう勘弁なのじゃが…ともかくやったのじゃ!信者2人目ゲットなのじゃ!」

「信者集めると何か良いことがあるのか?」

「うむ。既にぱせりの信仰を得たからあと3人信者を集めるとわらわが成長して高校に通うことができるようになるのじゃよ。それでこの前の野球のメンバーに声掛けをしてるというわけじゃ。」

「へー…じゃああとはミカドと、藪江くんと、ゴリラ塚さんで達成できるな。やったなオタマさん。」

「感謝するぞマサルよ。次会うときは学校じゃな!」

「ああ、まあ楽しみにしてるよ。…しかしヤマトは大変だな。」


「案外楽勝じゃな、マーちゃん。成長したらちょっと重くなるかもしれんがそこは堪忍なのじゃ。」

「メ~。」


 *


「…と言うわけで、ミカドよ。わらわを信仰してほしいのじゃ。」

「構わないよオタマっち。神様も大変なんだね~。」

「話が早くて助かるのじゃ!」


 *


「藪江よ。かくかくしかじかなのじゃ。」

「オタマちゃんは神様だったんでやんすか。オイラはプラモを信じてるでやんすが、オイラの親友が初詣に行くと『経験ポイントが入る』って言ってたでやんす。オイラも神様を信じてみるでやんす!」

「うむ。わらわを信じて野球に励むがよいのじゃ!」


 *


「ゴリラ塚よ。」

「ウホッ」

「…。」


(どうすればよいのじゃろう…。)

「えーと…わらわは海の神・綿津見の末娘なのじゃ。故あって…と言うか、わらわが成長して大和と同じ高校に通うには神としての成長が必要で、そのために信者を増やしているのじゃが…。」

「ウホホ ウホッ ウホホィ ウホホホホホ ウホ」

「…言葉が通じておるかすら怪しいのじゃ…。」


「メ~。」

「むぅ?マーちゃんおぬしゴリラ塚の言葉が理解できておるのか!?わらわにはマーちゃんの言葉がわかるから、マーちゃんを介せば会話ができるのじゃ!」


「ウホッ」

「メ~。」

「ふむ…『あなたがたが神様ということは薄々気が付いていました。』とな。」


「ウホ」

「メ~。」

「『私はこの土地を古来から守護する鎮守の神。あなたがたとはルーツを異にする神です。あなたがたとは全く定義の異なる存在ですから、厳密にはあなたがたから見て私を神と呼ぶことには差しさわりがあることでしょうね。ともかく、私は人ならザル存在です…今のはサルじゃなくてゴリラじゃないかというウィットに富んだジョークです、面白いですね。したがって私も小玉さんに協力したいのですが、人ではないので無意味になってしまうでしょう…申し訳ありません。』…ウホの一言なのにやたら長いのじゃ…。ともかくゴリラ塚は人ではないから協力できないということじゃな…。」


「ウホッ」

「メ~。」

「『力になれず心苦しいですが、私も応援していますよ。がんばってくださいね』…か。うむ、応援かたじけないのじゃ。」


「しかし、ゴリラ塚がダメだとレベルアップにはあと一人足りないのじゃ…やはり大和を口説きおとすしかないかの…。」

「ウホ」「メ~。」

「一生懸命な気持ちがあれば必ず伝わりますよ…か。うむ…ちょっと頑張ってみるのじゃ。」


──────

「…喉が渇いたな…」

「おや、大和殿お目覚めですかな。水なら小玉姫が出した水を水差しに入れておきましたぞ。」

「シオツチのおじさん…この水飲んでも大丈夫なやつなのか…。」

「天然水ですぞ、ご安心くだされ。」

「じゃあいただくか…うん、うまい。」


「大和殿。私からもお願いですが、小玉姫を信仰してはもらえませんでしょうか。あの150万年引きこもっていた小玉姫が初めてやる気を出しているのです。」

「おじさん…。でも学校に来られるのは気苦労が増えるからな…。」

 正直イワナガヒメさんとクズハだけで気が滅入っている。

「…まあ考えておくよ。今はまだ…。」

「ふむ…短期的、中期的な目標があった方が長続きしますからな。まずは大和殿の信仰を得ることを小玉姫の手近な目標にすることとして、気長に成長を待つことにしましょう。」

「結果的に長期的な目標になるかもしれないけどな。」

 しかし、サルや天野に強引に迫って迷惑をかけていないか、少し不安になってくる。一応一緒に野球をした仲だから、あまり見境のないことはしないと思うが…。


「あれ?お兄ちゃんお出かけ?」

「ああ、オタマがサルや天野に迷惑かけてないか心配だし、ちょっとオタマを探してくるよ。そこらへんに居るだろうし、拾って夕飯の材料買って帰ってくる。」

「いってらっしゃーい。」


 *


塩土老翁シオツチノオジさーん!ぱせりさーん!大変ですよーう!」

「おや菊理姫ククリヒメ殿…久しぶりですな。」

「あっククリヒメさん…先日はどうもです!…大変って何が?」

「それより大和さんはどちらに?」

「大和殿なら先ほど外出しましたぞ。まあしばらくしたら戻ってくるでしょう。」


「まずいッスよ…豊受姫トヨウケヒメさんから急いで知らせるように…って飛んできたんですけど大和さんがヤバイみたいですよ!」

「なんですとー!?」

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