第29話 神様見習い小玉

─ 人間界・大和の家


「のう叔父上。」

「なんですかな小玉姫。」

「料理も作ったのじゃ。野球もやったのじゃ。」

「そうですな。小玉姫にしてはよく頑張りましたな。」

「それで…わらわはいつ成長できるのじゃ?わらわもそろそろハイスクールライフを決め込みたいのじゃ…。」


「ふむ。よろしいでしょう。以前、神の成長には『心・技・体』の成長が必要と申し上げましたな。」

「うむ。」

「『技』は料理をすることで向上し、『体』は野球をすることで向上しました。あと必要なのは何ですかな?」

「『心』なのじゃ。」

「左様。」

「左様って…心を成長させるには具体的にどうしたら良いのじゃ?」


「『心』すなわち『信心』です。人からの信仰を集めることで神は次のステップに進むことができるのです。」

「了解なのじゃ!…大和!わらわを信仰し崇め奉るのじゃ!」

「…俺のお腹が痛いのを治してくれたらな…。」

「それはムリじゃ。」

「…じゃあまた今度な…。」


「ぐぬぬ…ぱせり!ぱせーり!」

「どうしたのオタマちゃん。」

「ぱせり!わらわを信仰するのじゃ!」

「いいよー。」

「やったのじゃ!叔父上!」

「うむ、よくがんばりましたな。」

「テレレテッテテテー!わらわはレベルが上がったのじゃ!」


「…。」

「…叔父上。」

「記念すべき一人目の信者ですな。」

「わらわが成長するには何人の信者が必要なのじゃ…?」

「小玉姫が次のレベルに上がるにはあと4人の信者が必要ですぞ。」

「そんなに。」

「小玉姫はまだ神レベル1と言ったところですから、これでもレベルアップ基準はすごく甘いのですぞ…。」

「叔父上!手っ取り早く信者を獲得する方法を教えるのじゃ!!!!」


「ふむ…信者を獲得するにもいろいろ方法がありましてな。ひとつは神の知識を人に教えることですな。例えばこの私、塩土老翁シオツチノオジは博識の神としても知られ、海水から塩を作る方法を人に伝え、尊敬と信仰を集めたものです。」

「ほへー…。」

「ほかには塚原卜伝つかはらぼくでんで有名な武術の流派の香取神道流かとりしんとうりゅうの起こりも神が関与しておりますな。創始者の飯篠家直(いいざさいえなお)という剣豪が一千日の厳しい修行の果てに経津主フツヌシより神書を授けられ、流派が起こったのですぞ。」

「なるほどのう…。!!大和よ!」

「なんだオタマ?」

「お腹を壊した時はおかゆなどの消化の良いものをたべるのじゃぞ!神の知識に感謝するが良いぞ!」

「うん、知ってる。そのドヤ顔で言った豆知識、既に知ってた。というか常識だよね。」


「…えーと…お腹を壊した時は腸の働きが弱くなってるから…そう、脱水症状に気を付ける…と書いてあるのじゃ!水をいっぱい飲むのじゃぞ!わらわの水術に溺れるがよいのじゃ!」

「オタマやめ…ごぼっ!…ごぼごぼ…。鹽乾しおひの珠!ハァ…ハァ…殺す気か!」

「小玉姫…まとめサイトの知識を人に伝えて信仰を得ようとするのはいかがなものかと思いますぞ!」


「叔父上!他の方法を教えるのじゃ!」

「ふむ、よろしいでしょう。歴史に名を遺す、というのも効果的ですぞ。私の例で言いますと、東北地方を平定するための神々の道案内をしたのが私ですからな。現在にいたるまで東北をメインに信仰が厚いのです。詳しくは陸奥国一之宮の鹽竈しおかまど神社のホームページに書いている由緒をご確認くだされ。」

「叔父上が何気なく見せかけて自分のマーケティングをしている気がするのじゃが…。」

「気のせいですぞ。」

「シオツチのおじさん、そもそも歴史に名を遺すってのがハードル高くないか…。歴史に残る偉業なんてそうそう起こらないだろう。」


「ふふふ…良いこと思いついたのじゃ。」

「やめろ。絶対ろくでもないことだからやめろ。」

「ちょっと理化学研究所というところに行ってくるのじゃ。大和、理化学研究所の道案内を頼むのじゃ。」

「いや…俺もその施設がどこにあるのか知らないし…。って言うか何しに行くんだよ…。」

「理化学研究所は埼玉県和光市ですな。」

「新元素を発見してもらって“オタマニウム”と命名してもらうよう掛け合うのじゃ。」

「やめなさい恥ずかしい。…そもそもよく知らんけど科学者のみなさんが頑張って発見した功績を何もしてないオタマが横からかすめ取るとか神様がすることじゃないだろう。ねえシオツチのおじさん。」


「…。」

「シオツチのおじさん…?なんで目を逸らすんです?」

「…方法としては…他者の功績をかすめ取るのもアリと言えばアリですぞ…。」

「えっ…なにそれきたない。」

「私の知り合いの神(…決して私のことではありませんぞ)は仏の皮をかぶって仏の信仰と抱き合わせにして信者を獲得したりしていますからな。逆もまた然りなので、まあ仕方ないところもあるのですぞ。神というものは、基本人に見えませんからな。人に良いことをしても仏のおかげになったりしますからそこは持ちつ持たれつですぞ。」

「なるほどなぁ…。」

「叔父上、その仏の皮はどこでポチれるのじゃ?」

「そんなものはないし、オタマ、お前は真似するな。」

「ある者は貴族の娘に乗り移って菩薩の称号をよこせと脅迫したこともありましたな。決して私のことではありませんが。」

「効果がありそうで嫌だな…。」


「信仰を得るあとの手段としては…そうそう、人に恵みを与え、時に恐れさせることですな。この草の根活動が地道ながらも着実に効果が出るものですぞ。」

「一番真っ当な手段が後になって出てきたな…。」

「むむぅ…わらわの苦手な分野なのじゃ…。」

「小玉姫は先日の野球で既に人に恵みを与えていると思いますぞ。ここはひとつ、一緒に野球をしたメンバーの方々に信仰の協力をお願いしてみてはいかがですかな。信仰するのはタダですからな。」

「それなのじゃ!大和よ、病み上がりのおぬしは後回しにして、ちょっとドサ回りをしてくるのじゃ。」

「オタマのやつやたら張り切っているな…俺は腹の具合も悪いし寝るか…。」

「神レベルが上がりやすい最初のうちが神生活の中で最も楽しい時期なのです。私にもあのような時代がありましたな…。」


(あいつ150万歳でまだ神レベル1だったのか…。)

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