第31話 経津主 剣参
「まずはサルのところに行ってみるか…迷惑かけてないと良いが…。」
先日野球をしたときにはまだ夏の名残があったが、季節もすっかり秋めいてきた。澄んだ空のどこからか、遠く鳥の鳴き声が聞こえる。今日の夕飯は秋らしくさんまにしようか。この時分ならば大分価格も落ち着いてきているはずだ。マーちゃんもいっしょに食べられるしな…。のんびりそんなことを考えながら歩いた。
「探したぞ、堀 大和。」
「…?ああ…うん、なるほどね…。」
俺を探す奴は大体予測がつく。そして、その姿を見ると予測は確信に変わった。
「はいはい…あなたは何の神様ですか?」
現代のファッションではなく、どことなく平安時代とかそのあたりの中世風の装い、こういうのは大抵神様だってわかっちゃう。
「うん…あれ…驚かないのか?」
「慣れてますから。慣れました。慣れたくなんてないですが。」
「拍子抜けだな…まあいい。オレは
「フツヌシ…えーと、確か、剣豪に神書を授けたとか…。」
「おっ、オレも有名になったもんだな!ふふん、その通り、オレは剣の神だ。」
さっきシオツチのおじさんから聞いた話をそのまま言っただけなんだけどな…。しかし、剣の神様とはまた物騒な神様がやってきたものだ。このまま会話を続けていいのか、非常に悩ましいところだが…一応会話は通じるようだし、仕方ない。
「それで、その剣の神様が何の御用ですか?」
「そうそう、それそれ。堀 大和、お前を巡ってなにやらいろいろキナ臭いことになっていて、天津神と国津神の戦争の引き金になりかねないと、天照様が困っている。」
「そうか、俺も困っている。」
「というわけで、オレが派遣されたってことだ。」
「…めちゃくちゃ端折ったな…もう少し詳しくお願いします。」
「説明は苦手なんだけど…ええと、天照様が困っていたと。それで
「へー…その良い案っていうのは?」
「武甕槌の兄貴は元々
「うん。」
「火の神だから母親の伊弉冉様が産んだ時に、伊弉冉様やけどを負って死んでしまった。」
「お腹の中がやけどしなかったのか心配だな…。」
「それに怒った父親の伊弉諾様が、火之迦具土を斬り殺してしまった。」
「なにそれひどい。」
「で、斬り殺された火之迦具土の死体から、武甕槌の兄貴、磐長姫の親父の
「へー…。」
「だから、武甕槌の兄貴が言うには、自分が産まれた時のように、『堀 大和も三分割にして、仲良く三柱の女神たちにくれてやればみんな幸せになるじゃねえか。』って。」
「ファッ!?」
「それで、不公平がないように均等に三分割するために、剣の腕の立つオレが遣わされ…っておい!堀 大和よどこへ行く!?」
予想をはるかに上回るアホさ加減だ…こんなバカなことに付き合ってられるか!俺は家に帰らせてもらう!俺は全力でダッシュした。…そして、夏の終わりに銀髪の青年が言っていたアドバイスを思い出していた。
『目の前に怪しい人が現れて、話が通じないと思ったらとりあえず全力で逃げろ。人間の常識が通用するとは思わないほうがいい。』
まさにその通りだ…人間を三分割するなんて人間の常識では考えられん。ここは逃げの一手に限る。
「心配するな堀 大和よ!痛いのは一瞬だけだから!」
「うわーっ!いつの間に!」
ざんねん!回り込まれてしまった!
「大和よ、なぜ逃げる…?」
「逃げるよ!つーか三分割されたら、多分俺死ぬから!死んじゃうから!」
そういえば…イワナガヒメさんの守護があるからもしかしたら斬られても大丈夫かもしれん…。
「フツヌシさんフツヌシさん。俺を斬ろうとしても多分無駄っぽいですよ?イワナガヒメさんが俺を守護してくれてるみたいだし…。イワナガヒメさんの守護はクズハが持ってた神剣…アメノハバキリ…だったっけ、も全く刃が立たなかったんですから!無駄なことはしない方が良いですよね。はいそれじゃあそういうことでこの作戦は失敗!さようなら!もう来ないでください!」
「ちなみに、先に断っておくがこの剣は天照様にお借りした天之尾羽張(アメノオハバリ)と言う神剣で」
「うん。」
「さっき話した火之迦具土を斬った神殺しの剣だ。」
「へー。」
「先にも説明したように、大山祇を産んだ剣だから、大山祇の娘である磐長姫の守護もたやすく切り裂くぞ。」
あっ、アカンやつやこれ。
「物置に放置してたみたいで、探すのに骨が折れたらしい。」
「見つからなければ良かったのに!ずっと物置にしまってあれば良かったのに!」
「これ以上逃げられるのも面倒だ、ササッと三分割にするか…動かれると多少均等じゃなくなるけど…まあいいか。」
「まあいいか、じゃねー!やめ…」
スパパーン!
「ぐえー!」
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